minekaede2023’s blog

キンポウゲ科の沼に沈みましょう。

クリスマスローズについて④ 最近導入した花

 前回に引き続き,最近導入した花のご紹介。今回はクリスマスローズです。

 

音ノ葉さんで購入した花

 まずは,文京区の椿山荘の隣にある園芸店,音ノ葉さんで購入した花です。

オーレアのゴールド(左),ピンクニゲル(右)

 オーレアのダブルとピンクニゲルです。こんな株が,数千円台で手に入る。良い時代になりましたね,というと大げさそうですが九十年代からクリスマスローズを栽培している身としては,感慨深い物があります。オーレアは文句なしに,ピンクニゲルもニゲルの他の花との交配に使えそうで,今から楽しみです。

 

神代植物公園の展示即売会で購入した花

 こちらは,現在開催中(2月6日から12日まで)のクリスマスローズ展で購入した花になります。もっとも,野生種は未開花株なので,まだ花は咲いていないのですが。

H. multifidus subsp. hercegovinus(左),H. atrorubensのダブル(右)
H. purpurascensのダブル(左),H. dumetorumのダブル(右)
H. cyclophyllus(左),H. odorusボスニア産(中央),H.multifidus subsp. istriacus(右)
吉田園芸さんの交配種

 昨年のオーキッドフリーマーケットに続き,ヘルツェゴビヌスがあったので買ってしまいました。ムルティフィダスの亜種なのですが,小葉が細かく切れ込み最大で180枚ほどに分かれます。また,香りのある個体が出る場合もある,魅力の多い野生種です。標高が高いところに分布している亜種なので,夏の管理に気をつけなければいけませんが今後が楽しみです。

 また,アトロルーベンス,デュメトラム,プルプラセンスのダブルも入手出来ました。花の色こそ判りませんが,小型のオリジナル原種系交配を作出する足がかりに出来そうです。ボスニア産オドルス,シクロフィルス,イストリアクスは2本ずつ入手出来ました。近年はかつてほど野生種の苗が入手し難くなってきているので,望外の成果でした。これらも実生で繁殖を図っていく予定です。

 交配種は,今回オーレア系やブラック,グレーの整形ダブルを狙っていたのですでにあまり会場内にはなかったのですが,吉田園芸さんの株で琴線に触れる物があったので,そちらを購入しました。萼片の裏の艶と,日光に当てたときの質感,色がたまりません。

 

神代植物公園売店で購入した花

 

オーレア(左)とブラック(右)

 せっかく来たので,売店もどうかと行ってみると,広瀬園芸さんや吉田園芸さんの開花株がずらっと!正直,地元のホームセンターでは質,量ともに勝負になりません。店員さんにお話を伺ったところ,クリスマスローズ展の時期に合わせてクリスマスローズを集中的に入荷しているとのことです。神代植物公園クリスマスローズ展,穴場なのではないでしょうか?今回はオーレアと,花弁のフリルが独特なブラックを購入しました。

 

 本当は,オザキフラワーパーク,渋谷園芸の本店のどちらも行ったことがなかったので足をを伸ばす予定でしたが,ここまでで持参した大型のマイバックに入らなくなってしまったため撤退しました。クリスマスローズの世界展の際に,オザキフラワーパークはリベンジしてみようかと思います。

 また今後も新しい個体を導入した際は,こちらで防備録を兼ねてご紹介します。

次回は,最近入手した雪割草についてか,その他の山野草についてご紹介します。それではまた!

福寿草について③ 新しい株を導入しました

 

 

 次回は種子のまき方の最終回と言いましたが,また脱線します。スイマセン。

埼玉県深谷市の彩佳さんで開催された福寿草展の際に,アルペンガーデンやまくささんにも梯子して福寿草を購入してきました。また,ちょこちょこ通販で取り寄せた物もありますので,防備録がてら記載します。

彩佳さんで購入した花

 まず,福寿草展の際に彩佳さんで購入したのはこちらの四鉢です。

武蔵の春(左),七変化(右)
吉田紅(左),横瀬の白(右)

 今回は青梅市に自生するミチノクフクジュソウである青梅草の素心,武蔵の春,秩父山系産の吉田紅,横瀬の白と,七変化を購入しました。武蔵の春は,ミチノクフクジュソウなので交配用としては難しい銘品ですが,素心なのが良いところです。大体フクジュソウの素心は,数代セルフを繰り返すことで素心として洗練されるので,青梅草の維持を兼ねて積極的に実生をしていきたいところです。

 吉田紅,横瀬の白はなかなか私の行動圏では見かけなかったので,今回購入できたのは望外の喜びです。横瀬の白はやや弱いと聞くので,維持には神経を使いそうです。

 七変化は八重咲きの作出に良いかと思って購入しましたが,やまくさの店主さん曰く変化の方が萼片の色が入らないので良いとのこと。まあ銘品は今全般に希少なので,こちらも積極的に繁殖を図りたいですね。

 

アルペンガーデンやまくささんで購入した花

 続いてアルペンガーデンやまくささんで購入した福寿草です。

四方田家緑花セルフ(左),姫川素心セルフ(中央),姫川素心×佐渡素心(左)

 四方田緑花は埼玉県皆野町で発見された有望な多花弁個体ですが,今回はそのセルフが手に入りました。写真を撮影したのが夜間だもので閉じてしまっていますが,しっかり内部は花弁が多く入っています。四方田緑花の性質を持った子株の繁殖,交配親どちらにしても非常に有望で,早く株に力をつけさせ種を取れるようにしたいところです。  

 姫川素心は糸魚川市で発見された素心個体で,レモンイエローの明るい花色が身の上です。こちらもそのものではなくセルフ個体ですが,はっきり素心の性質が出ているのでこちらも交配親として楽しみな個体です。

 最後は前述の姫川素心と,佐渡素心の交配株です。こちらも素心の特徴が良く出ていて良い花が期待できます。株に力をつけて,満作で開花させるのが楽しみです。

 

中越植物園さんで購入した花

 さて,ここからは今季入手した福寿草です。まずは,1月の世田谷ボロ市で出品されていた中越植物園さんで購入した物です。

どちらも丹那姫福寿草として購入したもの。
どちらも榛名。二株ずつ購入しているのは,種子を確実に採種するため。

伯雪。前述の吉田紅や彩鳳と同坪採取品と聞く秩父山系の福寿草

 丹那姫福寿草は,済州島産のミチノクフクジュソウのことと思われるので購入してみました。一般のミチノクフクジュソウに比べやや小さくまとまるはずですが,果たして。花は今期の養分を根に回してもらう為に切除済です。余談ですが,ミチノクじゃなくてフクジュソウにも,小型の個体群が知られています。千葉県富津市宮里や成田市産の個体です。また,八街黄梅という銘品もあります。いずれも花,葉ともにコンパクトで面白い系統ですが,山野草の即売会などでも見たことがありません。いずれは入手したいものです。

 榛名は,榛名山系産のフクジュソウでやや緑がかった花を咲かせます。かつて関東の福寿草生産の一大産地だったそうですが,その頃の名残で榛名山系産の銘品がいくつか存在しており,これもその一つです。実生系統の品種のはずですので,株に力をつけさせてもりもり種を取りたいところです。

 伯雪は前述の吉田紅と同坪産と言われる秩父山系産のフクジュソウです。ただ,どうも坪取りの際白い花の個体すべて伯雪と銘打ってしまったようで,数タイプ存在するようです。このあたりがフクジュソウの銘品の名前が混乱する原因なので,せめて複数銘を与えるか,とびきり良い個体のみに銘を与えてくれれば良かったのですが・・・。

 

岩崎園芸さんで購入した花

 続いては,札幌の岩崎園芸さんより通販で取り寄せた福寿草です。

柏尾紅(左)と佐渡素心(右)

 柏尾紅は,野沢温泉の柏尾地区で発見された赤花の銘品です。秩父山系産ではないので,花の形が少し異なります。私は産地別に山野草を収集,維持しているのでこういった採取地がはっきりしている銘品はなるべく抑えたいと思っていましたが,やっと入手出来ました。個人的に,過去の山取品は栽培特性の把握のためにも元の採取地の情報はなるべくはっきりさせておくべきと思いますが,なかなか来歴を辿るのは難儀することが多いのが実情です。それは兎も角,交配親として有望な銘品ですので今後が楽しみです。

 佐渡素心は,佐渡(花が大きく少数なのでおそらく大佐渡産)産の福寿草の素心タイプです。比較的大輪で見栄えもします。佐渡産は神奈川でもぐんぐん大きくなる強健な系統ですが,こちらは多少気を遣った方が良さそうです。交配親として有望で,かつ実生系統の銘品ですので,ガンガン繁殖を図りたいところです。

 

Yahoo!オークションで購入した花

 最後はYahoo!オークションで購入した物です。

吉野(左)と高遠桜(右)
白宝(左)と車屋白(右)

 吉野は,青梅産のミチノクフクジュソウ青梅草の銘品の一つで,比較的早咲なのが特徴です。実生系統品種で,その方のブログによると発芽率も良好とのこと。かなり根の状態が良かったので,植傷みなどあまりなく活着してくれそうです。これも積極的に実生で繁殖を図りたい物です。

 高遠桜は伊那谷産のミチノクフクジュソウの八重咲きです。残念ながら雌蕊,雄蕊ともに完全に弁化してしまうため,交配親にはなり得ないのですが銘品はまごまごしていると入手の機会すらなくなりそうなので思い切って購入しました。このタイプの八重はどんな小さな芽にも蕾を持ってしまうほか,開花期間が一月近くにも及ぶため株を疲れさせやすいので,摘蕾や花摘みなど気を遣う必要があります。

 白宝は三媒体の福寿草とのことで,種はかなり付きにくいのですが,強健で株別れが良いと聞いています。福寿海並みに強健だとも聞きますので,今後が楽しみです。

 車屋白は大正時代に秩父前衛の城峰山で発見された白花の銘品です。当方にもすでに一本あるのですが,確実に種子を採取するためにもう一本入手しました。残念ながらセルフで種を取っても白は滅多に出ないとされていますが,城峰山産のフクジュソウの系統維持にはなるほか,多花弁個体と交配すると良い花が出ると言われており,交配親としても期待できる名花です。

 

 最近入手した福寿草は以上になりますが,産地のはっきりしている物や,銘品は今後も積極的に入手していく予定です。ある方から,銘品なんて中身もいい加減で(同一銘でも伯雪のように複数系統ある場合が結構ある)もう仕方ないよと言われましたが,後発の当方はそれでも交配親を得るためには銘品を集めておかなければいけません。今後もまた新しい花を入手したり,庭で開花した際は防備録を兼ねて紹介していきたいと思いますので宜しくお願い致します。

 次回はクリスマスローズの入手個体をご紹介します。

クリスマスローズについて③ 神代植物公園のクリスマスローズ展へ行ってきました


 間髪入れずに更新です。

 2月6日から12日まで開催されている,神代植物公園クリスマスローズ展へ行ってきました。開催から3日目,平日とはいえ並ぶかと覚悟していましたが,九時十五′時点で正門は誰もおらず,一番乗りでした。

神代植物公園。思えば幼少期以来なので,約25年ぶりの来園でした。

 会場は,正面左手の植物会館展示室です。会館の前に,数点鉢植えが展示してありました。

左からバイカオウレン,セツブンソウ,フキタンポポです。いずれも早春の花ですね。

いずれも早春に咲く花ですね。フキタンポポは,ヨーロッパ原産のキク科の植物でフキのような葉に,タンポポのような花が咲くことから命名されました(なんと安直な・・・)。意外と夏場暑がること,観賞のために小型の鉢に植えることが多いのですが,本来根量が多い植物であるためそもそも小型の鉢での栽培に無理があることに二点から,流通量の割に定着しない植物です。春らしい色で,花の少ない時期に開花するのでなんとももったいない話です。

 さて,それでは展示物の写真を以下に貼ります。

H.thibetanusH.×hybridusの交配です。淡い色味と,萼片の質感がチベタヌスっぽいですね。こういった交配は,チベタヌスよりも育てやすいことが多いので今後の普及に期待です。
ゴールド系の交配種。最近はオーレアというそうです。かつてはゴールド系というと,濁りのない黄色のイメージでしたが近年では様々な色にゴールド系の形質を持たせることに成功した模様。
名札をきちんと見れていないのが悔やまれる。原種系のダブル。かつてメリクロン苗が流通した,パーティードレスシリーズを彷彿とさせる花形。ところで,またパーティードレスをメリクロンで再販しませんかね・・・?
これも原種系の血が濃い個体だが,色も花形も見事。加えてこのサイズでこの花の量,作り込みも素晴らしい。
H.×hybridusその①。私が始めた頃はダブル自体高嶺の花だったが,今日では様々なバリエーションが生まれている。
H.×hybridusその② 色,形とも様々なバリエーションがある。左は花が横や上を向くので露地でも目立つ。真ん中と右は多花弁咲きと呼ばれる,萼片の数が非常に多い咲き方。残念ながら種子は出来にくいとのことだが,作が落ちて,弁数が減ると正常に結実する場合がある模様。
H.×hybridusその③ ゴールド系やピコティ,黒やグレー系など,多様な花色が楽しめる。
H.×hybridusその④ 左はアネモネ咲き。右がグリーンのダブル。アネモネ咲きは,蜜腺が花弁化したもので独特な花形になる。ただ,雄蕊が散る頃には蜜腺も脱落するので,他の咲き方に比べ観賞期間は短いのが残念なところ。
H. thibetanusの色々。「チベットの」というが,どちらかというと四川省甘粛省青海省などのチベット高原の東側の山岳に分布する。産地によって耐寒性や花の色にバリエーションがあるが,中国政府の輸出規制により入手が難しくなった。現在は,ナーセリーによって実生生産が始まっている。産地別の系統が輸入しにくくなったのは残念だが,生産によらない山からの資源収奪に待ったがかかったのは喜ばしい。

 

H. niger(左)とH. croaticus(右)。このあたりの原種はやや暑がるため,山野草として扱うと育てやすい。

 

左は今回の受賞花。中央,左は人気投票一位の花。柔らかい花の色,形,花立ちの良さ。今回一番の衝撃を受けたのはこの株。

 会館の展示室はさほど広くはありませんが,展示品は一見の価値があります。また,日本クリスマスローズ協会の会員の方も詰めているので,栽培方法などを質問してみるのも良いかもしれません。
 同会場では即売会も行われております。近年流通の減っている野生種のクリスマスローズや,横山園芸のプチドール,今風の交配種などが出品されています!また,神代植物公園売店でも,この企画展に合わせてクリスマスローズ特集を行っています。併せてこちらもチェックされると良いでしょう(支払いは現金のみとの事でした。注意!)。即売会では,書籍なども取り扱いがありますのでそちらもお忘れ無く!

 さて,次回はおそらく種まきの最終回になるかと思いますので,また少々お時間戴ければと思います。それではまた次回!

 

福寿草について② 福寿草展に行ってきました


 まだ種まきの最終回を投稿していないのですが,その前に遠征の話を二回ほど挟みたいと思います。

 まずは,埼玉県深谷市の彩佳さんで2月3日から4日まで開催されていた,福寿草展についてです。まずは,展示品の花をいくつかどうぞ。

左から,早春,吉野,御所の賑いです
左から,津軽の幻,朱雀,白寿です。
左から神流,神流黒,雅楽です。
左が紫雲,右が法輪です。

 関東地方では今年の開花が全般的に遅いようで,咲きそろっていない鉢も多く見受けられました。また,フクジュソウは現在,平成中期のウイルス病の蔓延,生産者,栽培家の高齢化,平成二十六年豪雪によるハウスの倒壊被害の三重苦で,往事に比べかなり生産量自体が減っており,銘品の維持自体が困難になりつつあるとのことでした。

 私も多少はフクジュソウを栽培している身として,銘品の維持増殖や実生系品種の播種など,出来ることをしなければと考えさせられました。

 そんな我が家のフクジュソウですが,九州産のシコクフクジュソウがやっと開花しはじめたこところです。佐渡産や,秩父紅はまだ芽が地表に出てきたばかり。楽しい季節はまだまだこれからですね!

左が九州産シコクフクジュソウ,右が佐渡産のフクジュソウです。佐渡産はもうしばらく開花までに時間を要しそうです。

 ちなみに,三段咲きを栽培されている皆様。オランダからのメリクロン苗の逆輸入がほぼ止まってしまった現状,維持されている株以外が入手できる可能性は,現状非常に低いとのことです。ですので,なんとしても枯らさず維持した方が良いですよ。完全に花が弁化してしまうフクジュソウの品種群は,花持ちが非常に良く一ヶ月以上咲き続けることも少なくありません。また,どんな小さな芽にも蕾が付くと言われるほど花着きが良いのも特徴です。そのため,摘蕾が必須になります。小さな株では一つ,五,六芽以上の大株で三つ程度が限度です。すべて小さい内に,ハサミなどで摘み取ってしまう必要があります。作業時は,ウイルス予防に消毒をお忘れ無く。また,残した花も一週間程度で摘み取ってしまいましょう。摘んだ花は,水盆に浮かべておけば暫くは観賞可能です。

 次回は間髪空けずに神代植物公園クリスマスローズ展についてです。それではまた!

 

 

種子のまき方について④ 形態生理的休眠の種子のまき方

 今回は,形態生理的休眠の種子の播種についてです。皆さんは,種を播いたのになかなか発芽してこなくて焦れた経験がありますか?前回の生理的休眠の種子は,秋に播種すれば,概ね翌年の春には発芽してきました。しかし,形態生理的休眠の種子は,早くて10ヶ月,遅ければ発芽までに数年を要する事もあります。どのような植物が属するか,どう管理すれば良いのかを以下で追ってきます。かなり長くなりますが,お付き合いいただければ幸いです。

形態生理的休眠とは

 種子の中にある子葉や根の元の組織が種が完成して散布時に完成していない上に,子葉や根の元の組織が成長しても,生理的休眠の種子同様特定の条件を経験しないと発芽できないようになっている種子のことです。ややこしいですね。この休眠は更にやっかいなことに,子葉や根の元になる組織(胚といいます)が種子の中で成長するために,特定の条件が必要になっている事が多くあります。つまり,この休眠形態の種子を発芽させるためには,多くの場合発芽までに2つの条件を満たさなければいけない,ということです。

 形態生理的休眠を持つ種子は,裸子植物ユリ科,シュロソウ科,ヒガンバナ科などの単子葉植物キンポウゲ科,ケシ科,セリ科,モクセイ科,ウコギ科,ガマズミ科など広範な分類群で見られます。共通点は,これらの科の植物が,有胚乳種子をつける,ということです。そもそも無胚乳種子では,胚乳の代わりに子葉が発芽後の幼植物体が成長するための栄養分を蓄えているため,そもそも胚が未熟であることはあり得ないわけです。ですので,有胚乳種子特有の休眠であると言えます。

 日本の植物の場合,概ね胚の成長が夏の高温を経験することにより始まり胚の生理的休眠は冬の低温により打破されます

オオツリバナの種子です。比較的休眠は浅く,散布翌年には発芽することが多いものの,形態生理的休眠を持つ種子をつけます。

種子の管理について

 さて,ざっくりと形態生理的休眠の種子は管理方法で2つのグループに分けることが出来ます。それは,初夏から夏にかけて種子が成熟する物と,秋から冬にかけて種子が成熟する物です。以下で詳しく見てみましょう。

①初夏から夏にかけて種子が成熟する物

 これは,主にイチリンソウの仲間やセツブンソウ,フクジュソウの仲間,カタクリやコバイモのような春植物,ミスミソウ属,オウレン属やクリスマスローズなどの種子が該当します。これらの植物の種子は,初夏から夏にかけて散布されてすぐに夏の高温を経験します。その後,冬に低温を経験し,春を迎えます。種子の中では,胚は夏の高温期に成長し,早いものでは晩秋に気温が低下し始めると発根し,冬を迎えます。その後,冬の低温で胚の生理的休眠が打破され,早春に発芽します。このため,採取した種子を乾燥させて秋まで保存し播種をすると,夏の高温を種子が経験できず胚の成長が始まりません。そもそも,春植物の種子は草体に対し種子が大きく作られており,乾燥をあまり想定していません。そのため,胚乳が脱水されると発芽率が大幅に低下する種類も多く,乾燥させて保存すること自体がリスクとなります。ですので,採取した種子はなるべくすぐに播種をして,湿潤な状態で管理するのが適しています

いずれも初夏に種子が出来る形態生理的休眠を持つ仲間です。左から,フクジュソウクリスマスローズオオミスミソウです。以前このブログで紹介しましたね。

 しかし,発芽までの期間地上部の何もない鉢を乾燥させずに管理するのは難しい,と感じる方もいらっしゃると思います。その場合,以下のような手段があります。

い) 植木鉢ごと庭に埋め込む方法

 庭に植木鉢が入る程度の穴を掘り,植木鉢を埋め込む方法です。適当に降雨がある場合は,あまり水を撒かなくても極端な乾燥から種子を守ることが出来ます。庭がない場合は,ポットに播いて,ポットごと大きなプランターに入れた土に埋め込んでも近い効果を得ることが出来ます。

ろ) 茶こし袋を活用する方法

 クリスマスローズの種子の保存で利用される方法です。茶こし袋にラベルと殺菌剤に浸した種子,パーライトをいれて,水はけの良い用土を詰めた植木鉢やプランターに埋めて秋まで保管します。秋になり,気温が低下し水の管理が楽になってから取り出し,播種をします。このとき,あまり気温が低下してから播種をしようとすると,茶こし袋の中で種子が発根を始めてしまい,苗を傷める可能性が高まりますので注意します。

 

 さて,このタイプの種子は採種後すぐに播種し,夏の高温を30~60日間経験させ,その後冷蔵庫内で低温を60~90日間経験させてやることで休眠を打破することが出来ます。5月の頭に採種したとして,10月~11月に発芽させられる計算です。一部のクリスマスローズの生産者では実際に行われている方法です。が,私は全くおすすめしません。まず,促成を行う場合,自然に発芽させるより発芽率が低下します(一般的に,ですが)。次に,クリスマスローズでさえこの時期に発芽させ通常通り成育させるには十分な加温が必要です。加温できない場合は良くて成長が止まりぐずつき,悪ければ霜で枯れてしまいます。常緑のクリスマスローズでさえこうなのです。こんな時期に春植物を無理矢理発芽させられたとしても,満足に成育させるのは大規模な施設でもない限り不可能です。ですので,特に春植物の場合はおとなしく春に発芽してくるのを待つのが賢明です。なお,加温が可能で細やかな管理が出来るぞ,という方はこの方法でクリスマスローズの生育を半年繰り上げることが可能です。常緑のオウレン属は同様の方法で成育を早められる可能性があるほか,ミスミソウ属も,子葉へのジベレリン処理と組合わせることで開花までの期間を短縮できる可能性があります。自己責任ではありますが,我こそはという方は是非チャレンジしてみてください。

エンレイソウ属も,こちらのグループに属すると考えられますが発芽に至る条件がはっきりしていません。栽培条件下では,多くの種子が播種後2年目の春に発芽してきます。おそらくはユリ属の一部のように地下発芽型なのだと考えられますが,はっきりしていません。今後の研究による解明が期待されます。

②秋から冬にかけて種子が成熟する物

 こちらは,トリカブト属やサラシナショウマ属,ユリ属※,ウバユリ属,アマドコロ属,ボタン属,トネリコ属,ウコギ属,ハリギリ属,ガマズミ属など秋に種子が成熟する植物が該当します。これらの植物の種子は,胚の成長に夏の高温を経験する必要があるにもかかわらず,はじめに冬の低温を経験します。大抵はこの際に経験する冬の低温は,休眠打破には何ら関与しません。その後,春から夏にかけての高温を経験し,胚の成長が始まります。その後,二度目の冬にもう一度低温を経験することで成長した胚の休眠が打破され,春に発芽します

クレマチスやベニバナヤマシャクヤクも形態生理的休眠を持ちます。発芽には,通常は18ヶ月ほどを要します。

ササユリの種子。ササユリも,子葉の出現の前に地下で球根を形成します。発芽まで18ヶ月近く必要とする,発芽の遅いユリです。

 発芽まで最低でも18ヶ月と大変長い時間がかかるため①のように茶こし袋に詰めて管理しても,鉢に播くのを忘れたりします。ですので,①のい) のように,水やりに自信の無い方は庭やプランターなどに鉢を埋め込んで管理すると安全です。

 ところで,①ではよほどしっかりと管理できる体制でもないと休眠打破をして早期に発芽させてもうまみがないと述べました。こちらの種子は秋に採取した種子を冬の間に休眠打破し,春に発芽させられさえすれば,通常どおりの管理で栽培可能です。

 実際,ユリ属やアマドコロ属などでは早期に発芽させる手法が確立しています。一例としてヤマユリの休眠打破方法を挙げます。種子を湿らせた清潔な用土(バーミキュライトなど)と混ぜて袋に入れ,30℃日60間⇒20℃日30間⇒5℃50日間の順に温度を下げていきます。ここまで終わった時点で,袋の中に小さな球根が出来ています。ヤマユリは地下発芽性で,この小球根が生理的休眠を持っているのですが,5℃での処理が終わった時点で休眠が打破されています。10月中旬頃種子を採種したとして,3月の頭暗いでしょうかこれを野外に播き出すと,通常よりもおよそ1年間早く発芽させることが可能になります。ただし,一般にこの方法を使用すると,野外で自然に発芽させるよりも発芽率が低下します。ですので,貴重な種で試す際は,メリット,デメリットをきちんと天秤にかけた上で実行してください。尚,発芽までの間に菌害,虫害を受けやすいような種子(例えばウコギ科の仲間)では,休眠打破して播種した方が発芽率が高い場合もあるようです。是非色々チャレンジしてみてください。

 

※ユリの種子は,基本的に形態生理的休眠と思っていただいて構いませんが,程度に差があります。例えば,オトメユリ,サクユリ,ササユリ,ヤマユリは上記のように発芽に18ヶ月ほど要しますが,地下発芽姓でもエゾスカシユリカノコユリクルマユリなどはもっと短期間に発芽します。イワユリ(スカシユリ)やノヒメユリ,ヒメユリに至ってはそもそも直に地上に子葉が出現するほか,適温であれば2,3週間で発芽します。このように,同属であっても一概に休眠の深さは同一視出来ませんので,もし実生の仕方が判らない植物があった場合は,まずは普通に播いて,観察してみましょう。

左がスカシユリの花,右がエゾスカシユリの種子です。どちらも形態生理的休眠を持ちますが,スカシユリは数週間,エゾスカシユリは2,3ヶ月で発芽に至ります。同属内でも休眠のレベルが異なる良い例です。

用土について

 用土に関しては,前回の生理的休眠の種子と同様で構いません。ただし,発芽までにかかる時間が長いため,崩れにくい用土を使用することをお勧めします。冬の凍結で用土が崩れると,水捌けや通気性を損ねるためです。値は張りますが,硬質鹿沼土焼成赤玉土と火山砂礫類(軽石砂,日向土,蝦夷砂,桐生砂など)の混合,寡雪寒冷地のようなより凍結の激しい地域では,硬質鹿沼の代わりに日光砂などを使用すると良いでしょう。ただし,すべてを硬質の用土に置き換えると用土自体があまり水を吸わないため,かえって管理を難しくしてしまうことがあります。硬質鹿沼を使ったら赤玉は普通の物を使うとか,焼成赤玉を使ったら鹿沼は軟質の物を使用するとか,そういった工夫が必要です。

 形態生理的休眠の植物の中には,発根と発芽(正確には,子葉の地上への伸長)に数ヶ月ずれがある場合がありますフクジュソウ属やセツブンソウ属のような春植物,ユリ属の様な地下発芽する植物,ミスミソウ属やクリスマスローズセンニンソウ属のようなキンポウゲ科の仲間などで多く見られる特徴です。これらの植物は,子葉が出る前から地中に根を伸ばしているので,肥料を与えると年目の成長に弾みをつけてやることが出来ます。しかし,発芽するまでの間,こまめに除草が出来ないと緩効性肥料を添加していると,草に埋もれてしまうことも・・・除草に余計な手間ばかり増えてしまう場合も。そんな方は,液体肥料を活用しましょう。発根が始まる10月下旬頃から週に一度から2週間に一度程度,2,000倍ほどに希釈した液体肥料を与えると,その後の成育を後押ししつつ,それまで用土を貧栄養かつ清潔な状態に保つことが可能です。

播種の仕方

 播種の方法自体は,生理的休眠の種子とほぼ変わりません。有胚乳種子である分,微細な種子が少ないため扱いはこちらの方が楽かもしれません。

 一点,キンポウゲ科には採種適期になっても種子が緑色をしている物があります。このような種子は,散布後にしばらく光を浴びることで完熟するといわれています。ですので,播種時は粗めの用土の間に種子を落す程度とし,覆土は十四日から二十日ほど後に,改めて行うと良いでしょう。オウレン属やフクジュソウ属,ミスミソウ属などが当てはまります。

※ただし,雪割草の栽培家の方でこんなことをしなくても十分に実生栽培を上手くやっておられる方はたくさんいらっしゃいます。筆者も正直懐疑的なので,いつか検証を行いたいと思います。

播種後の管理

 管理方法も,生理的休眠の種子とほぼ同様ですが,一部注意点があるので以下に纏めます。

 まず,前述したように秋に発根が始まる種子の場合,冬場に用土が凍結・融解を繰り返していると根ごと種が浮いてきてしまい,乾いて枯れますなるべく気温の安定した野外に置き,一度凍り付いたらなるべく融けないよう管理をしましょう。浮いてきてしまった種子は,埋め戻すか上から覆土を追加して乾かないようにしましょう。春植物の場合,私の住んでいる南関東では2月の上旬くらいから発芽が始まりますので,その頃には日当たりの良い場所に移動してください。

 これらの植物は,多くが湿り気の多い場所に自生しています。特に春植物の種は,多くが乾燥に耐性のない,比較的柔らかい種です。ですので,播種床はあまり乾燥させないように管理しましょう。よく植物は乾湿の緩急をつけることで根を伸ばすと言われます。実際その通りで,鉢の内部まである程度乾かすことで根が水を求めて長く伸びます。しかし,それはあくまでも成体の植物の話です。根のない発芽前の種子や,発芽直後の苗にはそんな体力はありませんので,過度に乾燥させないようしっかり水の管理をしましょう。自信の無い方は,種子の管理の項で述べたように庭やプランターに鉢ごと埋めても良いですし,腰水管理でも良いと思います。そのあたりは,ご自身の栽培環境と良く相談の上工夫してみてください。

 

 かなり長くなりましたが,形態生理的休眠の種子のまき方についてはひとまず以上です。こちらも色々つらつら書きましたが,生理的休眠の種子同様実際に管理する段になればやらなければいけないことはさほど多くありません。また,当然のことですがご自身の住んでいる地域の環境,栽培管理によっても適する用土や管理は変わりますので,色々と試してみてください。今回の内容も,とりあえず試してみるのに使えるかな?くらいに考えていただければ幸いです。コツを覚えて,是非楽しい実生ライフをお送りください!

 それにしても,なるべく簡素に纏めるつもりでしたが,結局ここまで長くなってしまいました。そのうち,引用文献などもしっかりつけた形で纏め直す必要がありますね・・・。

 さて,次回は種子のまき方の最終回です。物理的休眠の種子や,多少変わった種子のまき方について纏めようと思います。それではまた次回!

 

 

種のまき方について③ 生理的休眠の種子のまき方

 前回の更新から大分間が開いてしまって申し訳ありません。写真の用意などに手間取りましたが,播種作業が遅れていてなかなか撮れませんでした。足りない写真は後日更新するとして,見切り発車的で恐縮ですが更新してしまうことにします。

 今回から,種子の休眠の性質を踏まえて種のまき方を考えてみたいと思います。

まずは,日本で一番オーソドックスな生理的休眠を持つ種子の播種についてです。

生理的休眠とは

 種子の中にある子葉や根の元の組織が,特定の条件を経験しないと発芽できないようになっているの休眠を生理的休眠と呼ぶと②の後編で述べました。この休眠はバラ科ムクロジ科,ツツジ科,カバノキ科,ブナ科などの日本の植物に広く見られます無胚乳種子ばかりというのが特徴です。日本では主に冬の低温がトリガーになっている植物が多く,概ね30~90日ほど湿潤条件下で低温要求があります。

生理的休眠の種子の例です。左からカラフトイバラ(バラ属),イロハモミジ(カエデ属),エゾオヤマノリンドウ(リンドウ属)です。生理的休眠には程度の差があり,休眠が弱い物は発芽適温で播種すれば発芽する場合もあります。

種子の管理について

 さて,よく考えて戴きたいのが,多くの種で休眠打破のトリガーが一定期間湿潤条件で低温条件に暴露されると言うことです。バラ科のサクラ属やキイチゴ属,オランダイチゴ属や,ツツジ科のスノキ属など,夏に散布される種子でもこの特徴は変わりません。つまり,これらの種子を採種後すぐに冷蔵庫などで低温湿層処理にかけてしまうと,秋や冬に休眠が打破されてしまいます。そんな時期に休眠を打破しても,大抵は上手く管理できずに枯らしてしまうことが多いです。ですので,低温湿層で休眠打破ができるからといっても,いたずらに打破処理を行っても良いことは何一つありません。そもそも,湿潤な気候である本邦の植物の種子は,多くが長期間※1の乾燥に耐えられるような仕組みを持っていません。ですので,夏に成熟する種子も,秋に成熟する種子も,基本的には生理的休眠の種子の播種は,採ってすぐ播く取播きが最適解※2になります。

 ・・・そうは言っても,夏に播種して翌年の春まで何も出ていない鉢を乾燥させないように管理なんてできない,という方もいらっしゃると思います。そんな方は多少発芽率が下がっても,貯蔵をするのが良いでしょう。例えば,ホタルブクロやオダマキ,トモエソウなどの鞘に入っている種子は,半年や一年といった期間であればカビが生えないよう表面を乾かし,冷蔵保存することで貯蔵が可能です。この場合,秋遅くまで待ってから播種すれば,野外で鉢を管理する期間を短くできます。

 また,サクラのような果肉のある種子や,ドングリ類などの乾燥に弱い種子は,茶こし袋やだしパックなどの不織布の袋にパーライトなどの清潔な砂と混ぜて詰め,庭や植木鉢の浅い場所(10㎝ほど)に埋めれば暫くは保存可能です。ただし,大抵は冬の間に発根が始まりますので,持って数ヶ月といったところでしょうか。

 厳密には野菜室⇒冷蔵庫⇒冷凍庫と徐々に温度を下げながら低湿度条件で冷凍保存すると長期間に渡り保存できる種子も多々あるのですが,家庭でそこまでするメリットは正直あまりありませんので,さっさと播いてしまいましょう。

 

※1 多くの樹木の種子で2,3年,蒴果で散布される草本類でも5年程度冷蔵庫内で持てば御の字でしょうか。しかも,大体において発芽率は低下していきます。乾燥地由来の園芸植物だと,きちんと密閉して保存すれば冷蔵庫内でもそれなりに保存が利きますが,湿潤な日本に自生する植物に同様の保存期間を求めるのは酷というものです。勿論,物理的休眠をする種子は例外です。

 

※2 中には例外もあります。冷蔵庫などで乾燥貯蔵をしていると,取播きよりも発芽率が向上する種子が希にあります。筆者はクロイチゴ(Rubus mesogaeus Focke var. mesogaeus)で経験しました。植物生理学的には今ひとつ原理が不明なのですが,貯蔵期間中に種皮が乾燥しひび割れることにより,ガス交換や吸水が上手くいくようになったのではないかと考えています。鳥が散布する植物で,先駆的な生態を持つ物の中には生理的休眠と物理的休眠を併せ持つ物がおり,種子も小さいことが多いので意外と安定して発芽させるのは厄介です。

用土について

 さて,発芽の三要素は水,酸素,発芽に十分な温度だというお話は②の前編でしました。実は種子は,この三要素が揃っていれば土なんて無くても発芽します。なので,究極的に言ってしまうと播種の際使用する用土は,どんな物でも構いません。

 ただし,発芽した後暫くは播種した用土で苗を育てなければいけませんので,最低限気をつけることはあります。それは,清潔であること,そして保水性・通気性に優れている事です。基本的には生理的休眠の種子は低温で休眠打破されますが,それでも一斉に発芽することは少なく,播種後数年間パラパラと発芽が続く場合が多々あります。そういった際に,種子が腐敗しにくいように雑菌が繁殖しにくい物を使用します。また,発芽直後の苗は乾燥は厳禁ですが,当然根の伸長には酸素が必要です。そのため,適度に水分を保ちつつ,水はけの良い土壌を目指す必要があります。実際に配合する際は,硬質鹿沼土軽石砂,赤玉土など無機系の用土や,ピートモス,乾燥水苔のような殺菌力のある用土を使用すると良いでしょう。特に,種子が小さい植物の場合は小粒の無機系用土に刻んだ乾燥水苔ピートモスを一,二割ほど混ぜてやると発芽しやすくなります。

播種の仕方

い) 一般的な大きさの種子

 播種した種子の大きさと同等の覆土をすると良いと言われています。これは,種子が風や水で移動するのを防ぐほか,乾燥を防ぐ,子葉が種皮から脱出しやすくするなどの効果があるようです。ですので,鉢の七分目ほどまで用土を入れ,種を均等にばらまいたら上に0.5~1㎝ほど覆土をしてやれば,大体の種子は大丈夫です。ただし,オダマキやキクの仲間,セリの仲間の種子は発芽に光を必要とする場合があります。これを好光種子といい,あまり覆土を厚くすると発芽し難くなります。対策としては,表面に粗めの用土や砂礫を敷き詰め,粒の間に種子が落ちるようにすると良いでしょう。このようにすると覆土なしでも種子が乾燥せず,光を浴びやすくなります。

 播種後は鉢底から水が流れ出るまでたっぷり散水します。霧吹きなどで表面だけ湿らせても内部まで水はなかなか浸透しません。ジョウロやハス口付きのホースで散水しましょう。

 

播種したら,種の倍ほどの厚さの覆土をします。上の写真ではエゾカワラナデシコの種子ですので,実際は種子の厚みよりは覆土が厚くなっています。なるべく清潔な用土を使用するようにしましょう。

ろ) 大きな種子の場合

 ドングリやツバキなど大きな種子の場合,種子が大きいので覆土は厚くする必要があります。また,これらの種子を播種する際は,横倒しで播くようにすると根も芽も素直に伸びやすくなります。

 播種後の散水はい)と同様です。

は) 微細な種子の場合 

 ツツジやリンドウなど,非常に細かい種子の場合は覆土は行いません。用土を鉢の八分目ほどまで詰め,水を十分に撒き事前に吸水させた用土に,パラパラと播くだけで大丈夫です。このとき,一カ所に固まって播種しないように細かい砂と種子を混ぜてまいたり,二つ折りにした葉書などから少しずつ落して播くと良いでしょう。播種後は,ジョウロなどで水を撒くと種が飛び散ってしまう場合があるので鉢底に受け皿を噛ませ,底面吸水で水を吸わせると良いでしょう。

細かい種子の例。種子が動きにくいように表面に敷き詰めた軽石砂の間に,種子を落します。

播種後の管理

 発芽までは乾燥は厳禁です。鉢の表面の用土が白っぽくなってきたら鉢底から水が流れ出てくるまでたっぷり散水して下さい。底面吸水の場合は,なるべく毎日水を交換しましょう。ボウフラ対策にもなります。秋や初冬に播いた場合用土が凍結する場合がありますが,山野草の場合生理的休眠の打破に有効であることが多く,気にしなくて大丈夫です。むしろ,暖冬気味で冷え込みが足りない場合の方が発芽が不揃いになることも...。ですので,しっかり寒さに暴露するようにしてください。雪国の場合は雪の下に埋めてしまうのも手です。太平洋側や内陸気候の場合,強い凍結で種子が用土の表面に浮いてきてしまう場合がありますが,露出して乾燥するのは良くありません。適宜埋め戻すか,覆土を追加してやりましょう。なお微粒種子の場合は,あまり心配しなくて大丈夫です。

カゴトレーなどに入れて管理すると,ひっくり返すなどの事故が減ります。水の管理に自信が無い場合は,更に下にトレーなどを敷き腰水管理をすると良いでしょう。

 発芽までの期間は種子によっても異なります。すんなり発芽してくれる場合もあれば,数年にわたってパラパラと発芽し続ける場合もあります。発芽するまで気長に管理しましょう。あまり病気が出ない土地であれば,鉢を半分ほど地面に埋め込んでやると管理がし易いです。

 発芽までに時間がかかる種子の場合,表面が雑草などの他の草に覆われてしまうと発芽しにくくなることがあります。除草作業はこまめに行いましょう。種子ごと捨ててしまわないよう,雑草がなるべく小さい間に抜き捨てるようにしましょう。

 

 さて,ここまでざっくりと生理的休眠の種子の播種について述べました。いかがだったでしょうか。色々つらつら書きましたが,実際に管理する段になればやらなければいけないことはさほど多くありません。また,当然のことですがご自身の住んでいる地域の環境,栽培管理によっても適する用土や管理は変わりますので,色々と試してみてください。今回の内容は,とりあえず試してみるのに使えるかな?くらいに考えていただければ幸いです。コツを覚えて,是非楽しい実生ライフをお送りください!

 次回は少し癖のある,形態生理的休眠を持つ種子のまき方についてです。お楽しみに!

クレマチスについて① カザグルマの苗を買いました

 今回も種のまき方ではなく,防備録を兼ねた購入品の紹介です。

 キンポウゲ科つながりで20年程前からクレマチスも栽培していたのですが,近所の方が地植えの株のツルを変な時期に全部バッサリ切って再起不能にしまって以来,一部の原種以外は栽培を諦めていました。

 最近勝手に庭に入られることもあまりなくなり,栽培熱が盛り返してきたので,当時金銭的に諦めていた(小学生でしたから・・・)流通しているカザグルマの苗を系統別に集めてみよう!と思ったのですが・・・。岩手の業者さんはカザグルマの取り扱いがなくなり,以前船橋カザグルマを販売していた業者さんも生産中止。全然売っていない,と途方に暮れていたのですが,なんとか光明が!岐阜県の春日井園芸センター様で数系統扱いがあったので,早速購入してみました!

武蔵野のカザグルマ

 まず武蔵野のカザグルマです。カザグルマの中では比較的花が小さく,多花性の個体のようです。東京西部由来の個体ですが,今では成育できる環境自体がほとんど残っていないため,滅多に見ることは出来ません。

土岐のカザグルマ

 続いて土岐のカザグルマです。現在の岐阜県南部由来の個体のようで,形の整った大輪の花が咲きます。

日光のカザグルマ

 こちらは日光のカザグルマ。土岐の系統に比べ,やや小ぶりの花が咲くようです。同時期に開花させて,どう花が違うのか観察してみたいですね!

土佐のカザグルマ

 土佐のカザグルマです。薄紫色のやや小ぶりな花が咲く系統のようです。

長野のカザグルマ

 長野のカザグルマです。カザグルマのくせに,雌蕊,雄蕊がえび茶色ではありません。満州産のカザグルマであるといわれている満州黄,および枝変わりの月宮殿も雌蕊,雄蕊が明るい黄色であることから,カザグルマにもこのような系統があるのでしょうか?今後大きく育てて観察してみたいと思います。

 春日井園芸センター様も,注文後あっという間に苗が届きました。元々当方の地元のクレマチスフェアなどで苗を見る機会が多く,良い苗を生産されていることは存じ上げていましたのでまた利用させていただこうと思います。今回は手頃なサイズの苗がなかったので兵庫県三田市由来のカザグルマは見送ってしまったので,近いうちに購入したいですね!

 ああ,岩手の業者さんもまたカザグルマを再販してもらえればなあ・・・。あちらはあちらで面白い系統の取り扱いがあって良かったのですが。ここ二年ほどカザグルマはサイトから消えたままなので,復活するのをおとなしく待つしか無いのがもどかしいところです。

 また,山野草店などで伊勢や宮崎の系統も出回っているので,そちらも流通のある内に順次入手していかなければ!

 次回こそは,種のまき方の続きが更新できるように,作業と写真撮影頑張ります!