minekaede2023’s blog

キンポウゲ科の沼に沈みましょう。

雪割草について② 新しい品種を導入しました

  本当は,種のまき方の続きを更新するべきなのですが,播種の写真を現在撮り貯めていますのでもう少々お待ち戴ければと思います・・・。

 今回は,雪割草を通販で購入したので防備録がてら更新です。寒くなってきて,雪割草の専門店では通販サイトが更新されるようになってきました。最近気になっていた品種がありましたので,山形県の石川ガーデン様のサイトをポチポチして苗をお迎えしちゃいました!せっかくなので紹介させて戴こうかと思います。

丹頂梅 ケスハマソウの選抜品種といわれています。

 まずはこちら!ケスハマソウの品種,丹頂梅です。丸弁梅型の標準花で,白い花が咲きます。

天神梅 六甲山系山のケスハマソウといわれています。

 続きまして,同じくケスハマソウの天神梅です。丹頂梅と同様丸弁梅型の標準花で,こちらは白地に桃色の覆輪が入ります。天神梅は棚にあるのですが,どうも何系統か流通していそうなんですよね・・・。こちらはサイトで濃色系と明記の上販売していたので,購入してみました。

丹頂紅

 丹頂紅です。サイトにも写真がなく,私も花を見たことがないのでどんな花が咲くか不明です。名前からケスハマソウ系かと予想して購入しましたが,どうも当たっていそうです。

こぼれ梅

 このこぼれ梅も,サイトに写真がない上に私も花を見たことがない品種です。これもおそらくケスハマソウ系だと思うのですが,どんな花が咲くのでしょうか?

安寿 昔から知られている,強健な千重咲きの品種です。

 最後は安寿です。強健で良く普及している品種ですが,当方の棚にはなかったので他の雪割草と一緒に購入してみました。高級な品種も良いのですが,安価な普及種は丈夫ですのでそれはそれで魅力だと思います。是非予備の苗を作ってから大株にしてたくさん咲かせてみたいものです。

 今回石川ガーデン様は通販では初めて利用させて戴きましたが,苗も良かったですし,到着までもあっという間でしたので今後も利用させて戴こうと思います。

 ところで,天神梅のように,かつて野外で採取された雪割草の品種は現在でも結構伝わっています。標準花の場合は実生系統であることが多いので,採取された個体そのものではない場合が多いのですが,千重咲きや三段咲きなどでは株分けで元株由来のクローンが残っていたりします。ですが,通販のサイトなどではどこ由来の個体か,情報があまり載っていないことが多いのが現状です。もし流通している山木由来の品種で,由来をご存じの物がありましたらコメントなどでお教え戴けると嬉しいです。

 次回は同時期に購入したクレマチスの苗の話になりそうなので,種まきの話はもう少しお待ちください。それではまた次回!

種のまき方について② 種子の休眠 後編

すいません,結構間が開いてしまいました。

前回の続きからです。

3.種子の休眠の種類

(は)生理的休眠

 最も一般的な休眠です。種子の中にある子葉や根の元の組織が,特定の条件を経験しないと発芽できないようになっている種子です。生理的休眠には深くない(Nondeep)

,中間的(Intermediate),深い(Deep)の3タイプがありますが,種を播く上で重要なのは中間的と深いの②タイプで,深くない生理的休眠は種子を乾燥状態で冷蔵保存しているだけでも打破されますので割愛します。

 生理的休眠を示す植物としては,バラ科ムクロジ科,ツツジ科,カバノキ科,ブナ科など広い分類群が挙げられます。日本では主に冬の低温がトリガーになっている植物が多く,概ね30~90日ほど湿潤条件下で低温要求があります。ここがくせ者なのですが,10℃以下で良いのか,5℃以下なのか,0℃以下でガチガチに凍り付かせた方が良いのかは植物によって異なります。本邦は園芸は盛んなのですが,種子の生理的な研究は正直後進的なのであまり解明が進んでいないのが現状です(もっとも,ガチガチに凍り付かせる必要がある植物は,物理的休眠も兼ねているように思えますが・・・)。ですので,個々の植物の分布や生育環境から推測し,必要な条件を推測する必要があります。また,冷温帯の植物の中には3月頃雪が溶けるとすぐに発芽できるよう,発芽適温が低い植物が結構います。そのため,秋に取播きして屋外で低温を経験させると,気温が上がり次第すぐに発芽してきます。人工的に冷蔵庫などで低温を経験させる場合(低温湿層処理と言います),開始時期が遅れると,野外に播種する頃には気温が上がりすぎていて上手く発芽しない,なんていう事になりかねないのでご注意ください。

イロハモミジの種子です。庭木や雑木物の盆栽で一般的ですが,種子は低温要求が満たされないと発芽しません。本邦のカエデの仲間では,一般的な性質です。

(に)形態的休眠

  このタイプの種子は,子葉や根になる元の組織が,種が播かれた後で成長し発芽に至ります。ただ,休眠と名前はついていますが組織の成長は速やかに行われる種類が多く,休眠を持たない種子に比べて多少発芽が遅いかな,程度の物が多いです。また,仮に時間がかかる物でも,ジベレリン酸(GA3)で処理してやれば,休眠打破可能が概ね可能です。(GAについてですが,私の記憶違いのようです。上記の一文は修正致します。)ニンジンやセロリなどが該当しますが,総じて一般的ではありません。

(ほ)形態生理的休眠

 このタイプはくせ者で,子葉や根になる元の組織が,種が播かれた後で成長しないと発芽できないのですが,成長が始まるためには何らかの条件が満たされる必要があります。この条件はいくつかパターンがあるのですがざっくり分けると①一定期間湿潤条件下で低温が必要なもの,②一定期間湿潤条件下で夏の気候(15℃以上,30℃以下が多い)を経験した後に,一定期間湿潤条件下で低温を経験して初めて発芽するもの,の②タイプがあります。

 ①の種は生理的休眠の種とほぼ同様の手順で発芽します。

 ②は,春植物や夏までに種子が散布される植物(雪割草やクリスマスローズイカリソウなど)が多く含まれます。また,センニンソウ属(クレマチス)やトリカブト属,サラシナショウマ属,ボタン属,ガマズミ属など発芽に二春以上かかると言われていた種子の多くが該当します。

こいつらはみんな形態生理的休眠です。

ここが問題なのですが,②のうち秋に種子が成熟する植物の場合,散布されてすぐの冬の低温はほとんど意味を持ちません。そのまま越冬して,翌年の夏や秋になって初めて種子は活動を開始します。そのため,発芽までに非常に時間がかかるわけですね。

 残念ながら,外部から植物ホルモンで処理をしても意味がないことが多いです。どうしても早期に発芽させたい場合は,種子に対して湿潤条件下で擬似的な夏の気候を経験させてやれば良いとされています。ヤマユリを例に取りますと,30℃前後で60日⇒20~25℃で30日⇒5~15℃で30日の順に温度を経験させると発芽させることが可能と言われています。ヤマユリは地下で発芽し球根ができて,これが越冬して初めて地表に葉が出てきますので,できた球根に一定期間低温処理をかけた後に野外へ播き出すと,発芽が始まるという訳です。ただし,残念ながら多くの植物で発芽を急かすと野外で発芽させる場合に比べて発芽率が下がります(例外として,ほぼ変わらないガマズミ属や,種子が病気に弱く促進処理をした方が発芽率が良いウコギ科などがあります)。そのあたりは自己判断でお願いします。

左はスカシユリ,右は近縁種のエゾスカシユリの種子です。ユリ属内でも形態生理的休眠のタイプは種によって異なり,この二種はかなり休眠が弱い部類に入ります。秋に播種しても,気温が高いと発芽が始まる可能性があり注意が必要です。

 

(へ)複合的休眠

 これも一般的な休眠ではありません。多くは物理的休眠と生理的休眠が組合わさっており,大体において傷つけ処理と低温湿層処理の組合わせで打破可能です。

○ちなみに,一部の植物の種子は,必ずしも低温を経験しなくてもなくても発芽しますが,湿潤条件下で低温を十分に経験した方が発芽率,および発芽勢(発芽の出そろいみたいな物です)が良くなる物が存在します。ゼンテイカ,ノハナショウブヒオウギアヤメ,キキョウ,サワギキョウ,リンドウなどです。これらの植物でもし秋播きもしくは冬播きして,発芽率が良くない場合は種が良くなかったか,乾燥させたかの二択です。管理方法を見直してリトライしてみましょう。

キキョウの花。これは岩手県住田町産の累代栽培している系統です。寒冷地産の系統ですが,低温自体は発芽に必須ではありません。

さて,ここまで駆け足で(の割に長くなりましたが・・・)休眠の概略を説明しました。これだけだと何が何やらだと思いますので,次回から実際に種を播いて,管理する際の注意事項も交えながら種のまき方について解説をしていこうと思います。写真も・・・入れられると良いなあ・・・。

 

いずれこの内容は,きちんと引用文献をつけてまとめ直します。気長にお待ち戴ければ幸いです。

種のまきかたについて② 種子の休眠 前編

前回予告したとおり,種のまき方について②です。

今回のテーマはこちら!

種子の休眠について

なんとなく小難しい感じのする話ですが,これがわかると初めての種子でも,扱い方や播き方に当たりがつくようになりますので,どうかご容赦ください。

 

1.種子の休眠とはなんぞや?

 まずはここからです。ハツカダイコンの種を思い浮かべてください。中学校の理科で習ったとおり,基本的には種子の発芽には①水分,②酸素,③植物ごとに適当な温度,この3つの要件が満たされることが必要です。先ほどのハツカダイコンは,これがすべて満たされれば一週間とかからず発芽します。ですがこのように条件が揃いさえすれば,すんなりと発芽する植物ばかりかというと,実はそうでもありません。

フロートを持つ種子,風を捉える冠毛がある種,軽くて小さい種,動物に消化されにくい種など,生育環境や種子の散布戦略に応じて色々な形や性質があります。左からノハナショウブ,ミズギク,エゾオヤマノリンドウ,カラフトイバラの種子です。

 

2.休眠する目的

 山野草は元々,あまり人が手を加えていない野生植物です。栽培化が進み,育てやすくなっている物もありますが基本は野生のままの性質を保持していると思ってください。植物は,種子の状態であれば風や水,時には動物を利用して移動することが可能ですが,ひとたび発芽してしまえばその限りではありません。乾燥しやすい季節や成育するのに温度が適当でない季節に発芽してしまえば,何もできずに枯れてしまう可能性が高いです。そこで,そういった季節を避ける機構を備えている種子がいるのです。この機構が休眠です。また,いくら発芽に適当な時期に芽を出せたとしても,散布された種子が一斉に発芽してしまっては,天候不順の年に当たったり,その植物を食べる昆虫が多い年に当たったりするだけで全滅するリスクがかなり高くなります。そこで,種類によっては,休眠で一斉に発芽しないよう調整していたりもします。つまり,種子の休眠は,種全体として発芽後の生存率を高める役割をしている,こう考えられるわけです(あくまでも人間が解釈するところは,です)。

 

3.種子の休眠の種類

 さて,では具体的に種子にはどのような休眠があるのか,これを順に見ていきましょう。

(い)非休眠種子

 まず,種子は休眠をする種子(休眠種子)と非休眠種子に分かれます。非休眠種子というのは,播種した際に発芽に必要な水,酸素,適当な温度の三要件が揃っているとすぐに発芽し始める種子のことです。多くの一年生の野菜,園芸植物がこれに該当します。自然界では,熱帯や砂漠,高山帯や亜寒帯に見られます。熱帯ではそもそも年中気温は成育に適当なことが多いですし,乾期は水が得られないので三要件を満たしません。砂漠も同様です。高山,亜寒帯の場合は種子が散布される時点ですでに温度が低下し,成育に適当でありません。ですので,これらの地域の種子は丁寧に保管し,発芽させたい季節に播種するのが適当,ということです。湿り気があったり温度が高いと動き出すことが多いので,一般に乾燥状態でジップロックなど空気の抜ける袋に入れ,冷蔵庫内などで播種まで保管すると良いでしょう。

左がヤチヤナギ,右がチシマキンバイの実生です。今年の9月に播種したのですが,早々に発芽してきてしまいました。北方系の植物の中には,非休眠の種子やごく弱い休眠しか持たない種子をつける物もいますので,注意しましょう。

(ろ)物理的休眠

 一般的に,硬実種子と呼ばれるグループです。アオイ科,ウルシ科,ヒルガオ科,フウロソウ科マメ科などに見られます。このタイプの種子は,種皮が物理的に水分や酸素を遮断するため,種子が十分に吸水や呼吸を行うことができず発芽に至りません。土中で眠り続け,斜面が崩れたり,川が氾濫したり,山火事が起きたりと行った大規模な攪乱で,他の植物がいなくなったところでいち早く発芽する植物が多いです。

 打破する方法としては,砂と一緒に揉み込んだりヤスリがけにより種皮に傷をつける,種子を一部切る,熱湯に数分浸す,酸で溶かすなどが挙げられます。アサガオの種まきの際に,種子をヤスリで削ったことがある方がいらっしゃると思いますが,あれがまさに物理的休眠の打破処理に相当します。熱湯への浸漬,酸処理は時間の調整が難しいので,家庭で行う際はもっぱら傷つけ処理になるでしょうか。このタイプの種子も,種皮以外には休眠機構を持たない物が多いため,発芽させたい季節に休眠打破を行い,播種をします。吸水制限が発芽できない要員の場合が多いので,傷をつけた後播種前に十分に吸水させるのがポイントになります。

左がセンダイハギの花,右が種子です。物理的休眠を持つ植物の種子は頑丈で,長寿命であることが多いです。

3の途中ですが,長くなってしまうので前編,後編に分割しようと思います。

後編に続きます。

種のまき方について① 種をわざわざ播く理由は?

今回から数回に渡って,山野草の種まきについてまとめていきます。

 

ではまず一回目はこちら!

なぜわざわざ種を播くのか?

これについてまとめていきたいと思います。

 

種まきのメリット

 今時,山野草を栽培しようと思えばちょっと大きめのホームセンターや園芸店でも苗を購入可能ですし,通販も可能です。ちょっと育てればすぐに花が咲く(もしくはすでに開花中の)苗を簡単に入手できるのに,なぜわざわざ手間をかけて種を播く必要があるのでしょうか。

 それは,種をまくこと自体にメリットがあるからです!

では早速,メリットについてまとめていきましょう。

 

1.種まきを繰り返すと,育てやすくなる

 これが種まき最大のメリットです高山植物の栽培をされている方は,かつてに比べて最近販売されている苗が育てやすいな,と感じられている方もいらっしゃると思います。これは,北海道の平野部の山野草業者が中心に種まきを繰り返すことによって低地の気候に順化した苗の生産を行っているからです。なるべく暑さに強い個体から種を取って,発芽した個体の中からまた暑さに強い物を選抜して・・・。と繰り返すことで暑さに強い系統を作り出してきたわけですね。当然,皆様のご自宅でも同様のことが起こります。種まきを繰り返すことで,その土地の気候にあった苗を得られやすくなるわけです!

 

2.あまり流通していない変わった植物を入手し易い

 趣味家の中には,変わった植物を維持していてもスペースの関係であまり鉢の数を増やせない方も多くいらっしゃいます。そういった方が,絶やすぐらいならとオークションやフリマサイトで種を販売することがあります。また,外国の山野草の中には日本に未導入で個人輸入をしないと育てられないような物もあったりしますが,こういった物も大体は入手は種子になります。

 

3.変わった花や斑入りが現れる,かも・・・

 種を播くわけですから,当然植物を有性生殖させるわけです。そうすると,親株の持つ遺伝的形質によっては八重や色変わりなどの変わった花が咲いたり,斑入りの個体が得られたりすることがあるかもしれません。実際,当方も雪割草の実生の過程で覆輪の個体は何度か見ていますし,一重の親から唐子咲きの個体ができたこともあります(雪割草の場合,専門店が大会などで放出する安い苗は大体選別落ちの個体です。ですので,意外と八重咲きの遺伝子を持っている場合が多いのです)。キキョウも種で累代する過程で,八重咲きが出たことがあります。当然,もっと良い花,変わった花を求め,交配をしても良いわけです。そうなったとき,種まきは避けて通れない過程となるわけですね。

 

4.病気を持っていない株を得られる

 Twitterでアカネ様よりご指摘戴きました。ありがとうございます!

 ユリやランなどウイルス病の罹患率が高く,かつ維持に致命的な問題が生じる植物の場合,種まき由来の苗は手っ取り早くウイルスフリーの苗になりますので重要な意味を持ちます。植物のウイルス病は治療方法がなく,基本的に罹患株は感染を広げる前に処分することになります。感染させないよう気をつけていても,アブラムシなどの微細な吸汁性昆虫が媒介するほか,剪定などで罹患株の汁がついたハサミや手も媒介となり得るため,防除には非常に神経を使います。定期的に種を播いて更新をすることで,ウイルス病の影響を押さえ込むことができます。

 

 さて,メリットがあるからには当然デメリットもあります。

 

1.開花まで時間がかかる

 当然,花が咲くまで時間がかかります。例えば,雪割草,クリスマスローズでは播種から概ね3年,シラネアオイヤマシャクヤクフクジュソウなどで5~6年,カタクリエンレイソウに至っては10年前後を要します。・・・気が長い趣味だと思いますか?

 でもご安心ください!花が咲くまでとても待てない,そんなあなたにとっておきの解決方法があります。それは・・・。

毎年播けば良いのです!

毎年播けば,雪割草なら3年繰り返せば新しい花が毎年咲くのです!

・・・冗談はこのくらいにして,肥料管理やホルモン処理を駆使することで短縮できる種類もありますので,そこは地道に工夫するしかありません。ただし,高山植物の場合,夏越し対策をしっかり行うと,下界の方が自生地の高山帯より生育期間が長くなるため,開花までの期間が短縮する傾向にあります。肥培も組合わせることで更に早くなる場合もあります。まあこのあたりはいずれ別の回でまとめます。

 

2.交雑する可能性がある

 これは,系統保存をしたい場合や交雑しやすい野生種を繁殖させたい場合に生じる問題です。花を咲かせて受粉させる以上,どうしてもこの可能性はつきまといます。こればかりは,袋かけなどで昆虫をシャットアウトして徹底的に管理するしかないでしょう。

 

 概ねこんなところでしょうか。どうしても時間だけはかかりますし,交雑のリスクは拭いきれませんが,種まきをすると園芸の楽しみがぐっと広がります!なにより,種まきを行い観察しながら栽培を行うことで,その植物の性質を掴みやすくなったり,新しい魅力が見つけやすくなるはずです!

 

是非皆様も楽しい実生ライフを!

というわけで,次回から本格的に種の話です。

次は,ちょっと小難しいのですが種子の休眠についてまとめたいと思います。

 

クリスマスローズについて② 植替えの方法

 クリスマスローズについて②です。

 今回は,植替えについてまとめて見ようかと思います。

 

はじめに

 クリスマスローズは地上部の展開は主に3~4月のみで秋に場合によって新芽が出るかな,程度なのであまり意識されないかもしれませんが,秋から春までは旺盛に地下部が成長しています。特に無茎種の交配種(H.×hybridus)は,かなり根の伸長が早い植物です。そのため,定期的に鉢増しや植替えをしないと鉢の中が根でいっぱいになって弱ってしまいます。意識をして最低でも二年に一度は植替えを実施するようにしましょう。かくいう筆者も,それで何度か痛い目を見ています・・・。

スロベニア産のHelleborus atrorubensです。緑の花なのであんまりアトロっぽくないのですが・・・。2年植替えていないので,今年は用土の交換も兼ねて植替えます。

植替えの適期
 当地(神奈川県相模原市)では,概ね10月から5月くらいまでが植替えの適期です。とは言っても,根鉢を大きく崩して株分けなどの荒事を行うのであれば,年内は11月末まで,年明けは3月以降が良いでしょう。12月から2月までの冬期は,あまり根を触らない鉢増しなどに留めるのが安全でしょう。ですが,植替えの適期なんていうものは皆様が住んでいる町の気候によって異なります。このあたりは例年の気候を参照して,自分の栽培方法に合った時期を絞り込んでいくと良いでしょう。*1

これは①で出てきたダブルのゴールドピコティです。これも2年植替えを行っていませんでしたが,根がぎっしり回っています。

根を解す

 鉢から引っこ抜くと,このように根がガッチリと用土を掴んでいます。これでは新しい根が伸びる余地がありません。あまりこの状態で放置していると古い根が傷んだり,水が染込み難くなってくるので,解しましょう。解すとこんな感じになります。

再びHelleborus atrorubensです。こちらは解してみるとそこまで根の量がありません。

 余談ですが無茎種に属する野生種は,夏に落葉することが多々あります。そういった株を植替えるために抜くと,こんな感じになります。フクジュソウの根がこんな感じですので,意外と似ていますよね。

左がH. dumetorum,右がミチノクフクジュソウ 秩父紅の地下茎と根です。案外と似ていると思いませんか?

用土について

 使う用土は,水捌け,水持ちの良い用土を使用しましょう。というと,何を矛盾したことをと思われるかもしれませんが,水捌けと水持ちの両立は実は可能です。このあたりの話はまたいつか別の機会にまとめますが,当方では硬質鹿沼軽石砂,赤玉土を主体に腐葉土や粒の大きめのココハスクなどを混ぜています。市販の草花用の培養土ですが,水持ちは良いのですが用土の粒が小さく水捌けがあまり良くないのと,一度水を切らすと撥水してしまい水を吸いにくくなる物が多いので当方は使用していません。特に,温暖地にお住まいの方は避けた方が無難でしょう。

良く深く植えるなと言いますが,当然気候によります。夏場雨が少なく乾燥しやすい当地では,若干深めに植えないと株立ちが悪くなり,結果根量が減ります。

植付ける深さ

 植える深さですが,当地では夏場かなり乾燥するので若干深めに植えます。万が一にも地下茎の上面を露出させてしまうと,株立ちが悪くなるほか根量が減ってしまうためです。写真の株の場合,スリット鉢のウォータースペースと芽の先がほぼ揃う程度で植え込んでいます。あくまでもこれは当地の場合ですので,お住まいの地域の気候に合わせてこのあたりも調整をしてみてください。

Helleborus atrorubensの植え付けが終わりました。根の量が少なかったので,今回は7号のロングポットから6号のロングポットにサイズダウンです。

水やりについて

 さて,植え付けが終わったら水やりです。最近訳のわからないキュレーションサイトなどで,○○ml水をやるだとか霧吹きで散水だとか,植物の種類を問わずろくでもない散水方法を説明していますがあれでは駄目です!ハス口をつけたホースでもジョウロでも構いませんが,水やりの鉄則は鉢底から水が流れ出るまで,です!基本的には乾燥地の植物であれば水やりの間隔を短く,適潤地の植物であれば間隔を短くすることで湿り気を調節すると良いでしょう。(ただし,原種シクラメンの様に水の要求量自体が少ない植物は,水やりの回数自体減らした上でさっと湿らす程度の散水と鉢底から流れ出る程度の散水を使い分けることがありますが,ケープバルブなどを除き例外的です。)特に最初の水やりは肝心で,崩れた用土の粉を洗い流したり,乾燥した用土に給水させる,根と用土を密着させるなどの意味があります。目安として,7号ロングポットの場合は鉢底から透明な水が流れ始めて20秒ほど水をやれば,まあ鉢内に十分水が回っているでしょう。

 

終わりに

 だーっと書いてしまいましたが,クリスマスローズの植替えはざっくりとこんな感じです。本当は株分けも触れたかったのですが,今年は割る株がいませんでしたのでまた来年以降ですね。

 次回は,せっかくこの時期ですので山野草の種まきについてまとめようかと思います。ではまたお会いしましょう!

*1:書籍の栽培スケジュールは東京準拠の場合が多く,そのまま適応してもあまり良いことはありません。せっかくの植物栽培ですし,色々自身でも工夫してみましょう。

ミズゴケの養殖について

 早いもので,更新ももう4回目です。

 思ったよりも人様にお見せできる花の画像の撮り貯めがなくて愕然としております。はい,今年の冬からはもっと真面目に写真撮ります・・・。

 余談は置いておいて,本日の更新はこちら!

成長点付近のアップです

 これ,皆様なんだか判りますか?洋蘭や食虫植物を栽培される方は,とてもなじみのある植え付け資材だと思います。そうです。これが生きている状態のミズゴケです。越冬に向かってずいぶん枯れた色合いになってきました。夏場だともっと青々してるんですけどね・・・。

今の時期は,なんとも地味ですね。ムラサキミズゴケだと美しく紅葉するのですが・・・。

 さて,昨今の環境保護運動の高まりを受けてニュージーランドやチリの高層湿原から輸入されてきていた乾燥ミズゴケが徐々に高騰してきています。(もっとも,自然界でのミズゴケの成長速度と採取量の差を考えると,どのみち今までのような使い方では早晩資源の枯渇の憂き目に遭っていたと思いますが・・・。)そんなミズゴケですが,酸性で抗菌作用もあり,微量な栄養素も含み,軽く水持ちが良いといったなかなか得がたい園芸資材でもあります。継続的に使うにはどうすれば良いか。それは・・・。

自作すれば良いのです!!!

とまあ,そんなに簡単にいけば良いのですが,さすがに乾燥ミズゴケを自作するほど増やそうとすると手間はともかくそこそこの土地が必要になります。ただし,湿性の山野草や食虫植物を栽培されている方は一考の余地アリです。なぜなら,少なくとも当方の庭では夏場こまめに剪定をしないとモウセンゴケを飲み込むほどに成長するからです。当然生きたミズゴケですので,乾燥ミズゴケのように劣化してくる心配もなしです。マメに手入れできる自信のある方,ミズゴケに飲み込まれにくい大型の湿性植物の基材に使いたい方は生ミズゴケおすすめです。

 では,実際にどうやって育てれば良いのか?当方宅での栽培方法を以下にまとめます。

  • 八百屋などで発泡スチロールのトロ箱を貰うor買う。サイズは大きければ大きいほど栽培は楽になると思います。栽培環境が安定します。
  • 高さの半分ほどの箇所に水抜き穴を空ける。開いていれば個数なんかは関係ありません。ただし,きちんと水が流れ出す程度の大きさで空けて下さい。

  • 抜き穴のちょっと上まで基材を入れる。基材には最初は乾燥ミズゴケを使っていましたが,今は本末転倒なのでピートモス(酸度未調整)鹿沼土パーライトの等量混合を使っています。基材は正直,水浸しにしても急激に腐敗が進まなければ何でも良いと思います。ただ,アルカリ性の資材は避けましょう。

  • 基材をしっかり給水させたら,刻んだ生ミズゴケを播く。若干厚めに播くと,群生後の成育が安定しやすい。

はい,こんな感じです。後は西日だけ避けてでガンガン日に当てて育てます。夏も炎天下に置きっぱなしです。そうすると,春頃仕込んで秋には以下の状態になります。

一夏でぎっしり茂りました。放って置くと中央が盛り上がりすぎて水切れし易くなってくるので,来春リセットです。

あふれた分を,また春にちぎって用意したトロ箱へ・・・のサイクルでかなり増やせます。是非お試しを!

 基材なんか無くても育つさ!という方もいますが,これはあくまでも養殖,栽培する方法です。私の管理下では,少なくとも基材なしよりもアリの方が早く,旺盛に成育しますし,何より美しく茂ります。(元々,植え込み資材用に養殖したわけではなく,純粋にミズゴケが美しいので南関東の酷暑の中栽培できないか工夫したのが最初なので・・・。)

 また,炎天下に置きっぱなし(当方の庭だと,ほどよい日陰がないのです)にする関係でトロ箱を使っていますが,プランターで養殖されている方もいますし,そのあたりは色々栽培環境に合わせて応用してみて下さい。

 ところで,今まで書いてきたのは東日本型の,高層湿原に生えるようなミズゴケの話です。西日本では,湿原だけでなく林内の湧水や法面の染み出しにもミズゴケが生えていますが,あれは同じ方法で育つ物なのでしょうか。当方に知見がないので西日本の方,教えて戴けると幸いです。

 最後に,入手についてですがこれが以外と難関です。道の駅や山野草専門店で販売していることもありますし,フリマサイトでも売られていますが・・・。山取品がどれだけ含まれているかは正直未知数です。こんなご時世ですから,できるだけ信用できる販売元から購入しましょう。

 以上ざっくりですが,ミズゴケの養殖方法についてまとめて見ました。あくまでもこれは当方宅での例ですので,皆様ご自身で工夫をしてもっと効率の良い養殖方法を編み出してみて下さいね!

 それではまた。次はクリスマスローズについて②と題して,植え替えについて触れようかと思います。お楽しみに!

クリスマスローズについて①

 三回目の更新になります。

 前回,チラリと洋物と予告をしましたが,今回の植物は・・・?

それはこちら!

Helleborus × hybridus 一般に,交配種と呼ばれるものです。

 近年品種改良著しいクリスマスローズです!

 クリスマスローズも,花の色や形の多様性が高く,品種改良が盛んです。かつては緑がかった白や濁った小豆色,それらに濁った赤紫のスポットが入るかどうか,といった花が主流でしたが欧州で無茎系の野生種を使用して再度品種改良が進んだ結果,明るく済んだ花色や,蜜腺が萼片化したダブル,蜜腺が肥大し色づいたセミダブルなど,新しい花形の園芸品種が作出されました。それらが2000年台に日本にも導入されてから,一気に人気に火がつき,今日に至ります。以下に最近の花を何枚かぺたり。

どちらもHelleborus × hybridusです。
Helleborus × hybridusは種を播くと基本的に同じ花が咲かないので,メリクロン培養されているもの以外では品種名のある個体はほとんど無いのが特徴です。

 さて,これまで雪割草,福寿草山野草続きだったのに,なぜいきなりクリスマスローズなのか?実は,これまでの植物とクリスマスローズには共通点があります。それは,全部キンポウゲ科の植物なんですね。キンポウゲ科は北半球の温帯~寒帯を中心に分布するグループで,概ね北方寄りの分布をします。しかも,雪割草,福寿草クリスマスローズいずれも森林性の植物ですので,実は案外育て方も似通っています。実際,「雪割草について①」で取り上げたHepatica transsilvanicaは,野生のクリスマスローズと混生し,一緒に東欧で林床を彩る植物です。

左がH. niger,右がHepatica transsilvanica。東欧で混生して自生していたりいます。

 ですので,皆様の中にも「クリスマスローズは夏越しが面倒」と思われている方がいらっしゃるかもしれませんが,当たり前の話です。ホームセンターで手軽に買える庭の賑やかし扱いでは夏越しは大変です。しかし,意識を夏が暑がる森林性の山野草として切替えて,しっかり遮光などの対策を打って栽培すると非常に頑丈で手がかからない植物へと変貌します。

H. ligurucus。イタリアのリグリア地方に由来する,香りの良い野生種です。

H. bocconei。イタリア半島シチリア島に自生します。香りが良く暑さに強いのですが,過湿を嫌うのと耐寒性がやや劣る傾向にあります。

 ただし,案外と日本の気候への親和性が高いと思われます。万が一にも野外へ逸失しないよう,開花後の種子の管理はしっかりと行いましょう。種を取らない場合は,花をきちんと切った方が株が充実しますので,必ず行いましょう。

 今後種の播き方や植え替えについても記事にしていこうと思いますので,宜しくお願いします!

 さて,次回は最近某所で何の気なしにつぶやいたら思ったより皆様から反応戴きました,ミズゴケの養殖についてです。それではまた次回!