minekaede2023’s blog

キンポウゲ科の沼に沈みましょう。

雪割草について④ 雪割草全国大会へ行ってきました

ずいぶん遅くなってしまいました。

2月24日,25日に上野グリーンクラブにて開催されていた第二十四回雪割草全国大会へ行って参りましたので,展示されていた花をご紹介致します。今回も展示品の素晴らしいことと言ったら・・・!!即売会で売られている花も,交配親の花がどんどん良くなっているせいかここ二十年でさらに洗練されてきています!今後ますます魅力を増していきそうです。

展示品について

 さて,大会と言えば展示品です!生産者をはじめ,全国の栽培家が育てた立派な鉢が多数展示されております。早速その中から一部を紹介させていただきます。

左から二段咲「神秘の光」,千重咲「春の淡雪」,妖精咲「紫紺」。
左から二段咲「紫環宝」,丁字咲「紅の白雪」,千重咲「春の使者」。
左から乙女咲無銘品,標準花「紫春閣」,千重咲「遠雷」。
左から三段咲「大奥」,標準花「豪雪」,変化咲「春光」。
左から唐子咲「春のおとずれ」,三段咲「春の帝王」,二段唐子咲「七福」。
左から二段唐子咲「蛍の夕べ」,千重咲「雪月花」,二段咲「夢慕情」。
左から三段咲銘銘品,三段咲「沢海の華」,唐子咲「貴美天恵」。
左から乙女咲「燈輝」,二段唐子咲無銘品,標準花「秘蔵っ子」
左から日輪咲「風の盆」,唐子咲「白扇」,妖精咲「三重芯」。
左から二段咲「星の王子」,乙女咲「梅園」,奇花「一つ葉重ね」。
左から標準花「紅化粧」,変化咲無銘品,変化咲無銘品。
左から標準花無銘品,丁字咲「蝶の舞」,変化咲無銘品。
左から標準花「凪の春」,変化咲無銘品,日輪咲「日の出」。
左から二段咲「波の花」,二段唐子咲「時の華」,千重咲無銘品。
左から三段咲「暖冬」,乙女咲「赤頭巾」,二段咲無銘品。
左から乙女咲「紅娘」,二段唐子咲無銘品,唐子咲無銘品。
左から標準花「花嫁」,標準花「残雪」,変化咲「安菜」。
左から標準花「笑子」,標準花「墨田覆輪」,二段咲「紫舞扇」。
左から標準花無銘品,三段咲「極楽蝶」,二段唐子咲「国紫無双」。
左から乙女咲「富有柿」,標準花「黒冴」,人気投票対象の標準花。
いずれも人気投票の対象の株。標準花も大株にしてたくさん咲かせると素晴らしい物です。

 本当はまだまだ魅力的な展示株はたくさんあったのですが,当日記録用の写真撮影も会場で行われていたため,写真に撮れたのはこのくらいでした。日本の雪割草の展示は花だけでなく葉も鑑賞対象とするため,いずれの株も厚く引き締まった良い葉姿をしていました。欧州でも,Hepatica nobilis var nobilisやH.transsilvanicaの選抜品種や交配種が栽培されていますが,あちらでは開花前に葉をすべて刈ってしまうのです!何を鑑賞対象とするのか,国によって異なるのも面白い物ですね。

 

  即売会で購入した花は,写真の整理に手間取っておりまして次回以降にさせていただければと思います。それではまた次回!

 

 

クリスマスローズについて⑥ 今期開花した花

 ちょっと更新の頻度が開いてしまいました。本当は雪割草全国大会について纏める予定だったのですが,息抜きがてら庭の花について更新しようと思います。

 当方のクリスマスローズは,1990年頃から祖母と母が集めた分と,2000年代に私が集めた分,2010年代後半から私が再度集めた分と原種系の4グループに分かれます。このうち1990年代の花と2000年代の花はかなり整理し,株数を減らしましたが比較的色の良かった株や大株だったものはまだ残してあります。そんな個体からも種子を取って播種していると,流行りではないもののぼちぼちの花形,色が出るものです。また,これまで集めた株を使って,今後は積極的に交配を行っていく予定です。いずれこちらで実生新花もご紹介できればと思っております。

左,中央は形は凡庸なのですが蜜腺が多少肥大しています。右は以前から維持していた個体ですが,萼がくるっと丸まり独特の花型になります。
いずれも当年初開花株です。2000年代に黒,と称して流通していた個体のセルフですが,今だとこの程度小豆色が良いところですね。
いずれも今の流行りとは少し外れますが,色の濁りもなく良い花かと思います。惜しむらくは花にアルカロイド臭があるので,香りのある原種と交配してどうにか出来ればと思っています。
右の花のフラッシュは,実生しても比較的良く受け継がれます。中央,左は花形は平凡ですが,割と色味が良いので交配したときが楽しみです。
緑がかった花や,ゴールド,黒など原種の特徴の強い花を交配で作っていきたい物です。
いずれも交配種のダブルです。特に中央の個体は購入時は普通のダブルだったのですが,肥培したところずいぶん豪華な花になりました。芽の増え,花立ちも良く良い個体です。
左からH.occidentalisH. torquatus,H. croaticusです。H.occidentalisは小輪多花性ですが,芽の数が増えやすく株元が蒸れやすい特徴があります。H. torquatusは個体により花の色や形にバリエーションが多く,交配種の作出において重要な役割を果たした原種です。H. croaticusはH. torquatusなどとともに,黒や緑の花の交配種のもとになりました。
いずれもH. liguricusです。個体によって花の形には多少のバリエーションがあります。花には柑橘類のような爽やかな香りがあり,比較的暑さにも強く交配親としても面白い原種です。今年はH. liguricus同士で交配をしたので,花形や香りで有望な株を選れればと思っています。
左からH .multifidus subsp. istriacusH. dumetorumH. atrorubensです。H .multifidus subsp. istriacusは個体によって香りがある場合があります。この個体は残念ながら,無香なのですが・・・。H. dumetorumは非常に小型の原種で,横山園芸さんのプチドールなど小輪多花性の交配種の元になりました。H. atrorubensも,前述のH. torquatus,H. croaticus同様黒や緑の交配種の元になりました。これらの原種は,暑さにあまり強くないこともあり厚手の断熱鉢に植えて育てると,山野草的な趣もあり見栄えがします。残念ながら当方の庭にはそんなしゃれた物はないので,もっぱらスリット鉢で管理しています。

 今年は暖冬のせいで開花が揃わなかった上に,開花が始まったと思えばずっと雨続きだったため,思うように交配が進みませんでしたがどうにか原種のセルフや,同種間交配は出来ました。数年後には,手持ちの原種の個体が増え原種系交配が作りやすくなるものと楽しみにしています。
 さらに,今年は神代植物公園やサンシャイン,立川などで新しく原種の苗も入手してきました。これらの苗も,遅くとも再来年の春には花が期待できますので順次交配親に投入できればと思っています。

 次回は雪割草全国大会についてご紹介できればと思います。それではまた!

クリスマスローズについて⑤ クリスマスローズの世界展へ行ってきました

 自分で勝手に種のまき方について纏めると決めたくせに,曲がりなりにもやっと書き終わってほっとしています。さて,今回は2月23日,24日に池袋サンシャインシティにて開催されていたクリスマスローズの世界展へ行ってきましたので,展示品や購入品の紹介をしたいと思います。それではどうぞ宜しくお願い致します。

展示会場について

 クリスマスローズの世界展は開始直後に一度行ったことがあったきりなので,およそ十数年ぶりになるでしょうか。人混みが苦手なので,混雑が予想されるアーリーを避けつつまだ品物が残っていそうな十時の入場を目指して,八時五十分には会場周辺に入りました。既にその時点で,アーリーには数百人の列が・・・。幸い一般チケットの入場列はまだ30人程度しか並んでいませんでしたので,そのまま十時まで待機しました。

 さて,まずは肝心の展示品をどうぞ!

ピンクピコティの多花弁咲きですが,これは圧巻ですね・・・!

こちらもピンクピコティのダブルですが,先ほどの株より落ち着いた雰囲気です。

暗紫色のダブルで,萼片の先のみ色が淡くなります。独特の雰囲気の花です。

どちらも今風の色のダブルで,かつ花が横を向きます。近年横を向く花や上を向いて咲く花も多くなってきました。

原種系交配のダブルです。圧巻の花付きです・・・!

左がアシュウッドナーセリーのブライヤーローズ,右がチベタヌス系交配種です。

うーん,2000年代頃から明るい濁りのない花が出始めていましたが,本当に華やかで洗練された花になりましたね。

会場でも人気を集めていましたね。中国に自生する H. thibetanusです。自生地によって花の色,模様などに差異があることが判ってきており,今後の実生増殖,栽培の一般化が待たれる野生種です。

 

H. croaticus(左)とH. dumetorum(右)です。野生種は線が細く,山野草的な雰囲気があり私は非常に魅力的だと思っています。

H .multifidus subsp. hercegovinus。残念ながら落葉性が強く,この時期には本亜種最大の特徴である細かく分岐した小葉を拝むことは出来ません。個体によっては花に柑橘系の香りがあります。

H. croaticus系の交配種。渋い花ですが,楚々とした魅力があります。

H. torquatusのダブルです。この個体ではありませんが,自生地で見つかったH. torquatusのダブルからパーティードレスシリーズは作出されました。

 交配種の大株だけで無く,野生種も展示があるのは嬉しいですね。やはり,皆さんの注目は中国原産の H. thibetanusが集めていました。 H. thibetanusは,中国が輸出を止めてから以前大量に日本に入ってきていた山取の輸入株の供給が絶えたため,高価ながら実生苗が流通するようになってきました。資源保護の観点からも,園芸文化の発展の観点からも良いことだと考えています。 H. thibetanusの場合,産地ごと(といっても,多くは省ごと程度の大変ざっくりした産地分けではありますが)に花の色や模様に差異があるため,ある程度系統ごとの差も維持された状態で繁殖が進む事が期待できます。今後の流通が楽しみな野生種です。
 展示会場でも存在感を示していましたが,原種系交配もダブルの個体やオーレアっぽい個体(といっても,オーレアは元々原種系の形質ですが・・・)なども出てきて魅力を増してきていますね。惜しむべくは,クリスマスローズは実生で同じ花を大量に生産することが出来ないため,なかなかこういった個体が流通に乗らないことですが・・・。

 本当はもっと展示株はあったのですが,人の多さに当てられて早めに離脱してしまいました。無念・・・。

購入品について

世界展で購入したクリスマスローズ

 さて,ここからはクリスマスローズの世界展で購入したクリスマスローズです。

い) 横山園芸で購入した株

 前回の神代植物公園クリスマスローズ展で,原種系ばっかりそろえたので今回は交配親にするべく交配種の良い株をと意気込んで来たのですが・・・。

フィールドナンバー付きのH. croaticus(左)とハンガリー産のH. purpurascens(右)です。

H. bocconei。実は家に典型的な個体がないのでお迎えしました。

H. liguricus(左)とH. abruzzicus(右)。H. liguricusは種取りを見越して二株購入。

H. multifidus subsp. mulutifidusH. multifidusまでしか記載が無いが,亜種ムルティフィダスは実生で増やしてみたい野生種だったので二本購入。亜種イストリアクスを売っていたので多分大丈夫だと思うのですが・・・。

ちょっと黒みは足りませんが,花形が良かったので。黒というよりは,グレーパープルでしょうか?パーティードレスが好きなくせに,交配種のダブルは幅の広めの丸弁が好みのようです。

 結局原種しか買ってない・・・!不覚!

 ただ,ここ数年原種の方が入手が困難なので,フィールドナンバー付きの個体などがあればそちらを優先したいのも正直なところ。悩ましいですね。ちなみにカゴの中の合計金額が怖くなって,アネモネ パブニナとプチドールを買わずに出たことを後日大変後悔します。

ろ) 野田園芸で購入した株

花を見た瞬間,買いだと思いました。野田さんは全体的にリーズナブルで良かったのですが,人がいかんせん多くてあまり見れなかったのが悔やまれます。

 本当はもっと通路の奥の方のオーレアなど気になっていたのですが,通路が人でいっぱいで・・・。会場,意外と空きスペースが多かったので来年は各出店ブースの通路をもう少し広く出来ない物でしょうか・・・?

 

 本当は他にもブースを見て回ってはいるのですが,値段と花でピンと来る物がなく,人にも酔い始めたのでここで撤収しました。

オザキフラワーパークで購入したクリスマスローズ

 会場を出て,乗り慣れない西武新宿線に揺られること十数分。どうせ東京まで出てきているのだからと梯子してオザキフラワーパークさんにお邪魔してきました。広い店内,圧倒的な宿根草の品揃え!素晴らしいですね!家が近かったら絶対に通い詰めてました。クリスマスローズもずらりと並んで・・・?いるのですが,ちょっと色あせ気味で。今年の暖冬のせいで全体に開花の進行が早く,色も変わりつつあるとのことでした。それでも何本かピンときた株がありましたので,しっかり押さえて参りました。

右のダブルは,咲き進んでいたため値引の対象でした。なんだかんだピコティの花が好きなので,購入。中央は花型,色ともにまさに今風の花かなと。なかなか豪華で良い花です。左の黒は,多少花型は凡庸ですが,自然光下ではなかなか色が良いのです。

 まあ家のクリスマスローズの開花が狂っている時点で予想は出来ていました。暖冬の年は色々厳しいですね・・・。

音ノ葉で購入したクリスマスローズ

 さて,翌日雪割草全国大会に行ってきたのですが,根津から音羽二丁目まで都バスで一本でいけるとのこと。坂を上れば,音ノ葉さんにいけるな・・・,ということで,梯子して参りました。

クレオパトラ(左)とビエラ(右)です。割と思い切って買いました。細かいフリルの入った多花弁も,緑の覆輪花も,美しい物ですね。
どちらも家にあまりない色なので購入。左の株は,退色が始まっていたためセール品でした。H. torquatusのダブルの血を感じたので購入してみました。
咲き進んでいるため背面の方が判りやすいのですが,模様が絞り状に入るダブルです。


 本当は,大和農園さんの小輪ホワイトダブルが咲き終わりで値引されていたんですが,今思えば買ってくるべきでしたね・・・。交配を始めようとすると,良い花なんていくらあってもこまらないものです。

全体の感想

 さて,世界展と園芸店を回ってちょっと思ったことがあります。前回の神代植物公園の時も思ったのですが,各ナーセリーが生産している花と,小売店でバイヤーが買い付ける花に若干の乖離があるような気がしています。正直,個人的にはバイヤーの好みの方が良い花のように思えるので,今後の流行の移ろいには一歩引いた目で見ていく必要があるかもしれません。最も,神代は雪で3日目まで見送り,世界展もアーリーを押さえていないので,良い花がさっさと捌けただけの可能性はありますが。

 

 次回は雪割草全国大会の展示と購入品についてご紹介致します!お楽しみに!

 

種子のまき方について⑤ 物理的休眠や,変わった特徴を持つ種子

 種子のまき方の最終回です。ずいぶん間が開いてしまって申し訳ありません。今回は,物理的休眠や変わった特徴を持った種子の播種について纏めたいと思います。

①物理的休眠の種子

い) 該当する種

 物理的休眠は,日本ではウルシ科やマメ科フウロソウ科などの種子で見られます。これらの種子は,土壌中で休眠をしながら発芽に適した条件が整うのを待てるように出来ています。山が崩れたり,川が氾濫したり,山火事が起きたり,そういった地表の植生がリセットされるタイミングを待って発芽するこれらの植物は,土の中で何年も何十年もチャンスをじっと待つ必要があります。そのために,分厚く頑丈な種皮を用意しました。厚い種皮に守られて,糸状菌や細菌に腐らせられる事も無く,酸素や水をほとんど消費しない低活性の状態を何十年も維持します。その後,運良く山崩れや川の氾濫の際に土砂にもまれ傷が付いたり,山火事の熱で種皮がふやけると種子が水や酸素を吸えるようになり,発芽可能になります照葉樹林などを歩いていると,カシやシイの大木が倒れた後にアカメガシワやカラスザンショウの実生がたくさん生えていることがありますが,これらも物理的休眠を持つ種子です。有機質に富んだ森林の表土に太陽光が射すようになると,表面付近は50℃程度まで地温があります。その熱で種皮がふやけると,いち早く発芽して大木の空けた空間を占有しにかかるわけです。このような環境をギャップといい,こうした場所で新しい植物が育つことをギャップ更新といいます。

ろ) 種子の管理

 物理的休眠の種子は,土の中で何年,何十年も発芽するチャンスをうかがうためにかなり頑丈な種皮を持っています。そのため,多少手荒く扱っても内部が劣化するようなことはありません。基本的に乾燥には耐性のある種子が多い(そもそも外部の乾燥が内部に影響するようでは,土中で何十年も休眠が出来ません)ので,十分に乾燥させた後に通気性の良い封筒などの袋に入れて冷蔵庫に入れておけば十分でしょう。

は) 休眠打破の方法

 発芽させるためには,頑丈な種皮をどうにかする必要があります。基本的には種皮を傷つけて,種子の内部が吸水やガス交換出来るようになれば自ずと発芽してきます。方法はいくつかあって,①傷をつける②酸で表面を溶かす③熱湯に浸す,このあたりが古典的ですがポピュラーかと思います。

 ①の傷つけはアサガオやオクラの種でやったことがある方もいるかもしれません。種皮に傷をつけたり,一部を切除することで内部を少し露出させ,吸水やガス交換をさせてしまおうという方法です。アサガオのように比較的大きめの種子では刃物で種子の一部を切除したり,針で種皮に穴を空けたり,金ヤスリで傷をつけることも可能ですが,小さい種ではなかなかそうもいきません。こうした種は,サンドペーパーに挟んでこすったり,花崗岩砂礫のような角張った砂と混ぜて良くもみ合わせたりして傷をつけます。なお,日本の植物ではあまり覚えがありませんが,熱などの刺激で種皮にある栓が外れる機構を持っている仲間が乾燥地にはいます。こういった植物の場合,ナイフなどで栓をこじ開けてやると,それだけでガス交換や吸水可能な状態にすることが出来ます。

 ②は酸化力が強く反応スピードが比較的遅い濃硫酸に種子を浸し,種皮に強制的に穴を開ける方法です。小さな種子でも実施可能ですが,ご家庭では廃液の処理,濃硫酸の管理自体に問題があるほか,浸漬時間を失敗すると種を全滅させてしまうためおすすめはしません

 ③は種子を熱湯(80~90℃)に数分間浸し,種皮をふやかしてやる方法です。この方を方法を試す場合,まず事前に種子を1日ほど浸水刺せておくことをおすすめします。というのも,大抵の場合種皮の硬度にはばらつきがあることが多いためで,最初からすべての種子を熱湯に浸してしまうと,水で戻るような種皮の比較的薄い物が茹で上がってしまうためです。一日水につけて,吸水しなかった種だけを処理すると良いでしょう

に) 播種について

 処理が終わった種子は,一日から二日浸水し,十分に吸水させましょう。吸水後,播種の方法は以前の項で取り上げました生理的休眠などの種子と同様です。

 一点気をつけることとして,一般に物理的休眠の種子は休眠が打破されるとすぐに発芽し始めます。そのため,休眠打破処理は発芽した実生苗の生育に適した時期に行うようにしてください。休眠打破した種は,長く保存は出来ませんので注意してください

②複合休眠の種子

い) 該当する種

 二つ以上の休眠が組み合わさった物を複合休眠と言います。物理的休眠にもう一つ何か別の休眠が合わさることが多いです。例えば,ホオノキやコブシなどモクレン属の種子は物理的休眠と形態生理的休眠の複合休眠です。ウルシやヤマウルシも,物理的休眠と生理的休眠の複合休眠です。

ろ) 種子の管理

 複合休眠の植物の種子の管理は物理的休眠に準じますが,モクレン属のような森林性の植物では,あまり乾燥保存が向かない場合がありますので注意してください(そもそもモクレン属の場合,物理的休眠を持つのは全体の数%程度のようです)。 

は) 休眠打破・播種の方法

 休眠打破の方法は物理的休眠と同様ですが,その後生理的休眠や形態生理的休眠を打破するために,湿潤条件で特定の温度条件を経験させてやる必要があります。そのため,秋に種子を採取した後すぐに播種し発芽を待つ形になるかと思います。

 また,ウルシ属やモクレン属のように森林内部のギャップで更新する植物の場合,前述した通り発芽に高い温度を要求する場合があります。これらの植物を発芽させたい場合,播種床を日光の良く当たる場所に置き,春にガンガン地温を上がるようにしてやると良いでしょう

③その他の種子

い) 水草の種子

 水草と言っても色々ありますが,主に問題になるのは水中で種子が熟し,散布される植物です。良く栽培されるのは,ヒツジグサなどスイレンの仲間,コウホネの仲間,オニバスミズアオイ,ヒシの仲間,ヒシモドキなどでしょうか。このような水中で成熟する植物の種子は,多くが乾燥するとそのまま種子の死に直結します。そのため,ジャムの空き瓶などに水とともに封入し,保存する必要があります。また,あまり休眠が発達しておらず,水温の上昇と発芽が直結する植物もあります(例えばミズアオイ)。そのため,甁ごと冷蔵保存するのが確実です種子を小分けにする際なども手早く行い,播種できない時期の場合はすぐに冷蔵庫に戻しましょう

 水上で種子が成熟する植物の場合は,生理的休眠や形態生理的休眠など種子の性質ごとに播種を行えば大丈夫ですが,湿性の植物の種子はあまり乾燥に耐性が無いことが多いので注意しましょう。

ろ) 寿命が短い種子

 非休眠種子の中には,散布されてすぐに発芽に好適な条件にたどり着けないと死んでしまうものがあります。ヤナギ科の風散布種子(ヤナギ属,オオバヤナギ属,ケショウヤナギ属,ハコヤナギ属など),オキナグサなどが該当します。これらの種子は発芽能力を保っている期間が短いだけでなく,乾燥にも弱い場合が多く採種後にいかに乾かさずに早く播種するかが鍵となります。オキナグサの場合は多少猶予がありますが,ヤナギ属の場合は数日で発芽能力を喪失する場合が多く,文字通り時間との勝負です。こういった種を播きたい場合は,事前に播種床を用意しておき,種子を採取し次第すぐに播くのが良いでしょう。どうしても保存したい場合は,フィルムケースなどの密閉できる容器に入れ冷凍庫で凍結保存することで保管が可能と言われていますが,家庭用の冷凍庫では温度が安定せず,多少分の悪い賭けになることには留意して下さい

は) 好光性種子と嫌光性種子

 好光性種子はレタスなどに代表される,発芽に光を必要とする種子です。キク科やセリ科の草原性の植物や,アジサイ科,ツツジ科,シュウカイドウ科などの微細な種子がこれに該当します。こういった種は播種床を明るい場所に置き,播種時はなるべく覆土をしないか,極薄くにとどめると良く発芽します。微細種子の場合元々種子が細かいため,用土は水苔か粒径の小さい物を使用して播種は覆土を必要としませんし,それ以外の場合も播種床の表面に粒径の大きな用土を敷き粒と粒の間に種子を落していけば良いので,こちらは比較的問題ありません。

 問題は,嫌光性種子です。発芽時に光が阻害要因になる植物で,森林性のものなどに見られます。キンポウゲ科は一部散布後に光を浴びることで成熟するくせに,多くが嫌光性ですし,ネギ属やナス属,海外産だとシクラメン属が嫌光性です。シクラメンの場合,播種し覆土した後保湿のため播種床をビニール袋に入れ,蓋をした発泡スチロールのトロ箱内で管理する方法がありますキンポウゲ科やネギ,ナスの仲間は比較的発芽に時間がかかるほか,発芽に必要な温度条件も複雑なためトロ箱に入れてしまうのは問題があります。なので,発芽するまではなるべく日の当たらない暗めの棚下などで管理すると良いと思います。勿論,発芽し始めたら各々の植物に適した環境に移してやって下さい。覆土をしっかり行えば問題なく発芽しますが,どうも暗いところで管理した方が発芽率が上がるのでは,と最近人から教えていただきました。このあたり,今後検証の予定ですのでごゆるりとお待ちください。

に) 煙発芽性種子

 本邦ではあまりなじみがありませんが,乾期,雨期がはっきりしている気候下や乾燥気候では,頻繁に山火事が発生し植生に大きな影響を与えている場合があります。

 代表例としては,オーストラリアのユーカリ林が挙げられます。ユーカリ属の仲間には,わざわざ可燃性の製油を気孔から放出し落雷の際に発火しやすくしている(!),そんな種類もあると言われています。実際,ブルーマウンテン国立公園の青い霞は,ユーカリ精油成分によるものです。彼らは定期的に山火事で焼かれることで種子由来の若い個体への更新を促し,山火事に適応できなかった樹木を群落内から閉め出してきたと推測されています。ちなみに,燃えたユーカリの親木も地下から萌芽し,再生することが可能です。

 他にも,プロテアやバンクシア,北米西海岸沿いのマツの仲間には,火事により果実や球果が燃えないと種子が散布されない物もあります。日本で導入されている植物では,ブラッシノキがその類いになります。幹に古い果実が残っていることが多いですが,割ってみると中にはまだ種が入っています。灰皿の上などで火をつけてやると,果実の蓋の部分が開き,種がこぼれます。

 こういった植物の種子は,前述した物理的休眠の種子と性質は似ていますが,一切合切燃え尽きて,灰が堆積した地面で発芽するためあまり雑菌には耐性はありませんので,なるべく清潔な用土を使用するようにします

 また,一部の種では山火事の際に植物が燃えることで発生する物質が発芽のトリガーを引いていることが判ってきました。これが煙発芽性です。これまでの研究で,カリキンと呼ばれる化学物質群が関与していることが判ってきました。火事後の植物残渣に含まれることも判ってきています。近年は,オーストラリアからスモークペーパーと呼ばれる休眠打破用のグッズが輸入されていますが,入手が難しい場合は植物の灰でも構わないと推測されます。私もまだあまり明るくない分野ですので,わかり次第随時追加の情報を更新したいと思います。

 

 さて,長々と更新してきた種子のまき方についても今回で最後になります。当然,もっと楽な管理方法があるぞ!という方もいらっしゃると思いますので,是非コメントにてお知らせ下さい。引用文献付きの詳細な物は,いずれ書きますのでしばしお時間を下さい。それでは皆様,良い実生ライフを!

 

雪割草について③ また新しい品種を導入しました

 

 今回もまた購入した株の紹介になります。最近導入した雪割草の新しい品種について,防備録を兼ねてご紹介致します。

中越植物園さんより購入した株

  中越植物園さんは,毎年秋に有料(今年は1,000円でした)でカラー写真付きのカタログを発行しています。雪割草の銘品の由来なども記載されており,眺めているだけでも楽しい物です。雪割草に限り,期限内に注文をすると割引があったりします。近年は交配が盛んになったため,雪割草全国大会などでも銘品はなかなか購入しにくいため,私も利用してみました。

佐渡
佐渡産の赤花オオミスミソウである佐渡赤です。

 以前は季節になるとそこいらの小さな花屋でも売っていた程度に良く出回っていた標準花なのですが,最近めっきり見なくなりました。完全に佐渡産のみの血しか入っていない訳ではないでしょうが,産地系統を気にする当方としては手に入る内に押さえてしまおうと思った次第です。これはとりあえず,この三株で花粉をやりとりさせて,佐渡赤で維持をしようと思います。来年また買い足して,プランターで増やすのも楽しそうですね。

佐渡
佐渡産の紫花オオミスミソウである佐渡紫です。

 こちらも最近めっきり見なくなりました。交配花がたくさん流通している現状,取り立てて騒ぐような花ではないかもしれませんが,私は結構好きです。これもこの三株で花粉をやりとりし,系統を維持する予定です。佐渡赤共々,こちらも買い足しても良いですね。

弥彦紫
弥彦産の紫花オオミスミソウである弥彦紫です。

 これも最近めっきり見なくなりました。先ほど佐渡赤の項で,必ずしも佐渡産のみしかかかっていないわけがないと書きましたが,先ほどまでの佐渡産と比べ,葉の形が少々異なるのが判ります。もっと特徴が出ないと思っていただけに意外でした。これもこの三株で花粉をやりとりさせる予定です。これも次回買い足そうかな。

素月

佐渡産の青軸黄花のオオミスミソウ,素月です。

 ここからは銘品です。今後本格的に交配を行うに当たり,なるべく産地の判っているものを中心に銘品の収集も始めました。このオオミスミソウ佐渡産(もっとも,佐渡島と一口に言っても大佐渡と小佐渡で気候も多少違いますし,群生地も何カ所もあるので大雑把な産地情報ではあるのですが・・・)のオオミスミソウスですが,花がクリーム色っぽいのが特徴です。雄蕊も黄色なので,ちょっと独特な雰囲気の花になります。富山産の黄花ミスミソウに比べ丈夫であるとされるので,積極的に交配に使用したいところです。

波吹雪

弥彦産の丁字咲き,波吹雪です。

 丁字咲きの銘品,波吹雪です。弥彦産で,白花の柔らかい雰囲気の花が咲きます。今後の成育が楽しみです。

吉祥

弥彦産の丁字咲き,吉祥です。

 こちらも弥彦産の丁字咲き,吉祥です。淡い青色の丁字咲きで,交配親として楽しみな株です。

化身

佐渡産の千重咲き,化身です。

 こちらは佐渡産の千重咲き,化身です。千重咲きは,雌蕊,雄蕊ともに弁化してしまうので交配には使用できないのですが,この品種は標準花を咲かせることがあるようなので交配親として確保しました。

舞扇

西山産の二段咲き,舞扇です。

 西山山系産の二段咲き,舞扇です。桃色の可愛らしい二段咲きです。丈夫な銘品とのことですので,交配親として頑張って貰いたいところです。

天神梅

ケスハマソウの銘品,天神梅です。

 以前石川ガーデンさんでも購入しましたが,天神梅は坪取り品ですのでどうも何系統かありそうなのです。今手元には,ホームセンター産で当方が十五年ほど維持していた株,石川ガーデンさんの濃色,中越さんのこの株,後ほど写真を貼るグリーンホビー産の株の4株があります。間違いなく石川ガーデンさんの株は当方が支持していた株とは違うので,どの程度他の株の間に差異があるのか,気になるところです。今後肥培して,たくさん咲かせて比較してみたいですね。

丹頂梅

ケスハマソウの銘品,丹頂梅です。

 こちらも以前石川ガーデンさんでも購入しましたが,天神梅同様丹頂梅も坪取り品ですので系統かありそうな銘品です。ボロ市でこの株とは別に,安かったのでもう一株求めてしまったので今手元には,石川ガーデンさんの株,中越さん由来の2株の,計3株があります。こちらもどの程度他の株の間に差異があるのか,気になるところです。今後肥培して,たくさん咲かせて比較してみたいですね。

番外:オオゴカヨウオウレン

オオゴカヨウオウレン。屋久島の特産種です。

 雪割草ではないのですが,紹介する場に困ったのでこちらで。オオゴカヨウオウレンです。屋久島に特産するバイカオウレンの近縁種です。本当はじゃんじゃん交配して種を取ろうと思っていたので五株注文していたのですが,在庫切れで一株のみ届きました。安定して種子を採取するためにも,来年以降また買い足せればと思っています。

グリーンホビーさんで購入した株

 続いて,神代植物公園売店で購入した株です。

天神梅

ケスハマソウの銘品,天神梅です。

 先ほども取り上げたとおり,すでに何株か手元にありますが,葉の雰囲気が何やら異なります。花の雰囲気はどんな感じでしょうか。今後が楽しみです。

大紫峰

千重咲きの銘品の,大紫峰です。

 千重咲きの大紫峰です。丈夫な銘品だとは聞いていたのですが,実物を見て衝動的に購入してしまいました。千重咲きは,種子が取れない分芽の増殖が良く比較的株分けがし易いと聞いています。株分けで予備が確保できたら,是非大株にしてたくさん咲かせてみたいものです。

 

 今回は以上になります。今後本格的に交配を進めていくためにも,銘品や交配株の良花を積極的に収集していく予定です。また防備録を兼ねてご紹介すると思いますので,宜しくお願い致します。それではまた次回お会いしましょう!

春植物について① 新しく導入した春植物

 今回も導入品の紹介回です。

やまくささんで,春植物も購入してきたのでそちらを。とは行ったものの,2月15日現在,まだ地上分がありませんので一体何の写真をあげているのやら・・・。

Anemone pseudoaltaica

キクザキイチゲです。左が未丈岳産,右が丹後山産。どちらも上越国境の豪雪地,高標高の産地です。

 まあ土しかないのですが。それにしても,本邦では多雪地域を中心に広く分布するキクザキイチゲが,アルタイカの偽物という学名を冠しているのもなにやら釈然としませんね。アルタイカ,そもそも本邦にいないですし。

 それはともかくさすがやまくささん,産地系統のはっきりした物がありました。未丈岳,丹後山ともに大豪雪地帯である谷川連峰の山です。両方とも高標高地産らしく,多雪地のキクザキイチゲにもかかわらず小型とのこと。それでヒメキクザキイチゲなんですね。それにしても上越国境の産で小型のイチゲ,似たような物を聞いたことがありますね?そう,ミヤマイチゲです!ミヤマイチゲはキクザキイチゲヒメイチゲの交雑種とされ,園芸的には丹後紅と大源太が知られています。どちらもおそらく銘が冠する山の産ですので,かなり自生地は近いことになりますね。これらのヒメキクザキイチゲキクザキイチゲの矮性品であるにせよ,ヒメイチゲとの交雑であるにせよ,面白そうな産地系統であるのは間違いなさそうなので,今後が楽しみです。

ミヤマイチゲ

ミヤマイチゲ「丹後紅」(左),「大源太」(右)

 これもほぼ土ですね。中越植物園さんのカタログで注文しました。上記のキクザキイチゲの項で記述したとおり,上越国境山脈産のキクザキイチゲヒメイチゲ間の種間交雑種と思われる植物です。残念ながら,稔性はありません。大源太は白,丹後紅は桃色の花が咲くとされていますが,丹後紅はよく白い花が咲くと言われます。丹後紅は満作になると半八重咲きになるといわれますから,是非桃色の花で拝んでみたいものです。

Amana erythronioides

ヒロハノアマナ。実生増殖品です。

 はい。また土です。

 入間産のヒロハノアマナです。なんと,個人宅内の残存個体群由来の種子から増やしたものとのこと。実際にカタクリフクジュソウ,セツブンソウなどは宅地化した際に自生地が個人宅の敷地の中に取り残され,少数ながらも残存する場合があるのですがそれが表に出てくるとは・・・。ともかく,種を播きたい私としては種子由来の個体は願ってもないことでしたので,三株購入してきました。まだまだ開花までは時間がかかりそうですが,気長に待とうと思います。

 次回は,冬の間に買い足した雪割草についてにしようと思います。ここでこうやって購入株を晒していくと,滅多なことでは枯らせなくなりますしね!背水の陣と言うやつです。

 それではまた次回!

クレマチスについて② 新しく導入したクレマチス

  最近こういった導入報告が続いてスイマセン。

 やまくささんと音ノ葉さんでクレマチスも購入してきましたので,防備録を兼ねてご紹介します。

Clematis clarkeana 

C. clarkeana 。結構大きい苗でした。

 所謂アンスンエンシスです。なぜ今更?というくらいおなじみの野生種ですが,家の建て替えの際に失いまして,以来購入の機会が無かったのです。ホームセンターでも園芸店でも,全然入荷がなくて・・・。今回音ノ葉さんで取り扱いがあったので,飛びついたというわけです。以前は2mほどのオベリスクを立て地植えで絡ませていましたが,今回はどうしようかな・・・。株が充実すると枝という枝にいっぱいに花をつける,大変楽しい冬咲きのクレマチスです。なお,及川フラグリーンさんのサイトによると,ウロヒラとヘンリーというそっくりさんがいるようなので,いずれは購入して比較してみたいところ。分布以外で形態的な違いはあるのでしょうか?

Clematis patens

C. patens。日野市産です。

 この間もカザグルマを買ったのに,またカザグルマです。ただ,こちらの株は日野市のどこの親から採取された種由来かがはっきりしている個体でした。さすがやまくささん・・・。栄養生殖由来じゃないカザグルマもなかなか無いですよね。どんな花が咲くか楽しみなのですが,後悔が一点。有性生殖由来の個体なのに,1本しか買ってこなかったことです。おそらく1本1本花の色や形にばらつきが出るはずですし,どうせ種取りするんなら複数個体あった方が絶対に良い!ということで,上野の山草フェアー前後にまた遠征しようかと思います。春植物も欲しいですし。

 また何回か購入品の紹介が続くかと思います。本当は種まきの最後を早く更新したいのですが,急に温かくなってきてしまったせいでちょっとバタバタしていてなかなかかけていません。もうしばらくお待ち下さい。

 それではまた次回!