minekaede2023’s blog

キンポウゲ科の沼に沈みましょう。

種のまき方について② 種子の休眠 後編

すいません,結構間が開いてしまいました。

前回の続きからです。

3.種子の休眠の種類

(は)生理的休眠

 最も一般的な休眠です。種子の中にある子葉や根の元の組織が,特定の条件を経験しないと発芽できないようになっている種子です。生理的休眠には深くない(Nondeep)

,中間的(Intermediate),深い(Deep)の3タイプがありますが,種を播く上で重要なのは中間的と深いの②タイプで,深くない生理的休眠は種子を乾燥状態で冷蔵保存しているだけでも打破されますので割愛します。

 生理的休眠を示す植物としては,バラ科ムクロジ科,ツツジ科,カバノキ科,ブナ科など広い分類群が挙げられます。日本では主に冬の低温がトリガーになっている植物が多く,概ね30~90日ほど湿潤条件下で低温要求があります。ここがくせ者なのですが,10℃以下で良いのか,5℃以下なのか,0℃以下でガチガチに凍り付かせた方が良いのかは植物によって異なります。本邦は園芸は盛んなのですが,種子の生理的な研究は正直後進的なのであまり解明が進んでいないのが現状です(もっとも,ガチガチに凍り付かせる必要がある植物は,物理的休眠も兼ねているように思えますが・・・)。ですので,個々の植物の分布や生育環境から推測し,必要な条件を推測する必要があります。また,冷温帯の植物の中には3月頃雪が溶けるとすぐに発芽できるよう,発芽適温が低い植物が結構います。そのため,秋に取播きして屋外で低温を経験させると,気温が上がり次第すぐに発芽してきます。人工的に冷蔵庫などで低温を経験させる場合(低温湿層処理と言います),開始時期が遅れると,野外に播種する頃には気温が上がりすぎていて上手く発芽しない,なんていう事になりかねないのでご注意ください。

イロハモミジの種子です。庭木や雑木物の盆栽で一般的ですが,種子は低温要求が満たされないと発芽しません。本邦のカエデの仲間では,一般的な性質です。

(に)形態的休眠

  このタイプの種子は,子葉や根になる元の組織が,種が播かれた後で成長し発芽に至ります。ただ,休眠と名前はついていますが組織の成長は速やかに行われる種類が多く,休眠を持たない種子に比べて多少発芽が遅いかな,程度の物が多いです。また,仮に時間がかかる物でも,ジベレリン酸(GA3)で処理してやれば,休眠打破可能が概ね可能です。(GAについてですが,私の記憶違いのようです。上記の一文は修正致します。)ニンジンやセロリなどが該当しますが,総じて一般的ではありません。

(ほ)形態生理的休眠

 このタイプはくせ者で,子葉や根になる元の組織が,種が播かれた後で成長しないと発芽できないのですが,成長が始まるためには何らかの条件が満たされる必要があります。この条件はいくつかパターンがあるのですがざっくり分けると①一定期間湿潤条件下で低温が必要なもの,②一定期間湿潤条件下で夏の気候(15℃以上,30℃以下が多い)を経験した後に,一定期間湿潤条件下で低温を経験して初めて発芽するもの,の②タイプがあります。

 ①の種は生理的休眠の種とほぼ同様の手順で発芽します。

 ②は,春植物や夏までに種子が散布される植物(雪割草やクリスマスローズイカリソウなど)が多く含まれます。また,センニンソウ属(クレマチス)やトリカブト属,サラシナショウマ属,ボタン属,ガマズミ属など発芽に二春以上かかると言われていた種子の多くが該当します。

こいつらはみんな形態生理的休眠です。

ここが問題なのですが,②のうち秋に種子が成熟する植物の場合,散布されてすぐの冬の低温はほとんど意味を持ちません。そのまま越冬して,翌年の夏や秋になって初めて種子は活動を開始します。そのため,発芽までに非常に時間がかかるわけですね。

 残念ながら,外部から植物ホルモンで処理をしても意味がないことが多いです。どうしても早期に発芽させたい場合は,種子に対して湿潤条件下で擬似的な夏の気候を経験させてやれば良いとされています。ヤマユリを例に取りますと,30℃前後で60日⇒20~25℃で30日⇒5~15℃で30日の順に温度を経験させると発芽させることが可能と言われています。ヤマユリは地下で発芽し球根ができて,これが越冬して初めて地表に葉が出てきますので,できた球根に一定期間低温処理をかけた後に野外へ播き出すと,発芽が始まるという訳です。ただし,残念ながら多くの植物で発芽を急かすと野外で発芽させる場合に比べて発芽率が下がります(例外として,ほぼ変わらないガマズミ属や,種子が病気に弱く促進処理をした方が発芽率が良いウコギ科などがあります)。そのあたりは自己判断でお願いします。

左はスカシユリ,右は近縁種のエゾスカシユリの種子です。ユリ属内でも形態生理的休眠のタイプは種によって異なり,この二種はかなり休眠が弱い部類に入ります。秋に播種しても,気温が高いと発芽が始まる可能性があり注意が必要です。

 

(へ)複合的休眠

 これも一般的な休眠ではありません。多くは物理的休眠と生理的休眠が組合わさっており,大体において傷つけ処理と低温湿層処理の組合わせで打破可能です。

○ちなみに,一部の植物の種子は,必ずしも低温を経験しなくてもなくても発芽しますが,湿潤条件下で低温を十分に経験した方が発芽率,および発芽勢(発芽の出そろいみたいな物です)が良くなる物が存在します。ゼンテイカ,ノハナショウブヒオウギアヤメ,キキョウ,サワギキョウ,リンドウなどです。これらの植物でもし秋播きもしくは冬播きして,発芽率が良くない場合は種が良くなかったか,乾燥させたかの二択です。管理方法を見直してリトライしてみましょう。

キキョウの花。これは岩手県住田町産の累代栽培している系統です。寒冷地産の系統ですが,低温自体は発芽に必須ではありません。

さて,ここまで駆け足で(の割に長くなりましたが・・・)休眠の概略を説明しました。これだけだと何が何やらだと思いますので,次回から実際に種を播いて,管理する際の注意事項も交えながら種のまき方について解説をしていこうと思います。写真も・・・入れられると良いなあ・・・。

 

いずれこの内容は,きちんと引用文献をつけてまとめ直します。気長にお待ち戴ければ幸いです。