minekaede2023’s blog

キンポウゲ科の沼に沈みましょう。

種のまき方について① 種をわざわざ播く理由は?

今回から数回に渡って,山野草の種まきについてまとめていきます。

 

ではまず一回目はこちら!

なぜわざわざ種を播くのか?

これについてまとめていきたいと思います。

 

種まきのメリット

 今時,山野草を栽培しようと思えばちょっと大きめのホームセンターや園芸店でも苗を購入可能ですし,通販も可能です。ちょっと育てればすぐに花が咲く(もしくはすでに開花中の)苗を簡単に入手できるのに,なぜわざわざ手間をかけて種を播く必要があるのでしょうか。

 それは,種をまくこと自体にメリットがあるからです!

では早速,メリットについてまとめていきましょう。

 

1.種まきを繰り返すと,育てやすくなる

 これが種まき最大のメリットです高山植物の栽培をされている方は,かつてに比べて最近販売されている苗が育てやすいな,と感じられている方もいらっしゃると思います。これは,北海道の平野部の山野草業者が中心に種まきを繰り返すことによって低地の気候に順化した苗の生産を行っているからです。なるべく暑さに強い個体から種を取って,発芽した個体の中からまた暑さに強い物を選抜して・・・。と繰り返すことで暑さに強い系統を作り出してきたわけですね。当然,皆様のご自宅でも同様のことが起こります。種まきを繰り返すことで,その土地の気候にあった苗を得られやすくなるわけです!

 

2.あまり流通していない変わった植物を入手し易い

 趣味家の中には,変わった植物を維持していてもスペースの関係であまり鉢の数を増やせない方も多くいらっしゃいます。そういった方が,絶やすぐらいならとオークションやフリマサイトで種を販売することがあります。また,外国の山野草の中には日本に未導入で個人輸入をしないと育てられないような物もあったりしますが,こういった物も大体は入手は種子になります。

 

3.変わった花や斑入りが現れる,かも・・・

 種を播くわけですから,当然植物を有性生殖させるわけです。そうすると,親株の持つ遺伝的形質によっては八重や色変わりなどの変わった花が咲いたり,斑入りの個体が得られたりすることがあるかもしれません。実際,当方も雪割草の実生の過程で覆輪の個体は何度か見ていますし,一重の親から唐子咲きの個体ができたこともあります(雪割草の場合,専門店が大会などで放出する安い苗は大体選別落ちの個体です。ですので,意外と八重咲きの遺伝子を持っている場合が多いのです)。キキョウも種で累代する過程で,八重咲きが出たことがあります。当然,もっと良い花,変わった花を求め,交配をしても良いわけです。そうなったとき,種まきは避けて通れない過程となるわけですね。

 

4.病気を持っていない株を得られる

 Twitterでアカネ様よりご指摘戴きました。ありがとうございます!

 ユリやランなどウイルス病の罹患率が高く,かつ維持に致命的な問題が生じる植物の場合,種まき由来の苗は手っ取り早くウイルスフリーの苗になりますので重要な意味を持ちます。植物のウイルス病は治療方法がなく,基本的に罹患株は感染を広げる前に処分することになります。感染させないよう気をつけていても,アブラムシなどの微細な吸汁性昆虫が媒介するほか,剪定などで罹患株の汁がついたハサミや手も媒介となり得るため,防除には非常に神経を使います。定期的に種を播いて更新をすることで,ウイルス病の影響を押さえ込むことができます。

 

 さて,メリットがあるからには当然デメリットもあります。

 

1.開花まで時間がかかる

 当然,花が咲くまで時間がかかります。例えば,雪割草,クリスマスローズでは播種から概ね3年,シラネアオイヤマシャクヤクフクジュソウなどで5~6年,カタクリエンレイソウに至っては10年前後を要します。・・・気が長い趣味だと思いますか?

 でもご安心ください!花が咲くまでとても待てない,そんなあなたにとっておきの解決方法があります。それは・・・。

毎年播けば良いのです!

毎年播けば,雪割草なら3年繰り返せば新しい花が毎年咲くのです!

・・・冗談はこのくらいにして,肥料管理やホルモン処理を駆使することで短縮できる種類もありますので,そこは地道に工夫するしかありません。ただし,高山植物の場合,夏越し対策をしっかり行うと,下界の方が自生地の高山帯より生育期間が長くなるため,開花までの期間が短縮する傾向にあります。肥培も組合わせることで更に早くなる場合もあります。まあこのあたりはいずれ別の回でまとめます。

 

2.交雑する可能性がある

 これは,系統保存をしたい場合や交雑しやすい野生種を繁殖させたい場合に生じる問題です。花を咲かせて受粉させる以上,どうしてもこの可能性はつきまといます。こればかりは,袋かけなどで昆虫をシャットアウトして徹底的に管理するしかないでしょう。

 

 概ねこんなところでしょうか。どうしても時間だけはかかりますし,交雑のリスクは拭いきれませんが,種まきをすると園芸の楽しみがぐっと広がります!なにより,種まきを行い観察しながら栽培を行うことで,その植物の性質を掴みやすくなったり,新しい魅力が見つけやすくなるはずです!

 

是非皆様も楽しい実生ライフを!

というわけで,次回から本格的に種の話です。

次は,ちょっと小難しいのですが種子の休眠についてまとめたいと思います。