前回予告したとおり,種のまき方について②です。
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種子の休眠について
なんとなく小難しい感じのする話ですが,これがわかると初めての種子でも,扱い方や播き方に当たりがつくようになりますので,どうかご容赦ください。
1.種子の休眠とはなんぞや?
まずはここからです。ハツカダイコンの種を思い浮かべてください。中学校の理科で習ったとおり,基本的には種子の発芽には①水分,②酸素,③植物ごとに適当な温度,この3つの要件が満たされることが必要です。先ほどのハツカダイコンは,これがすべて満たされれば一週間とかからず発芽します。ですがこのように条件が揃いさえすれば,すんなりと発芽する植物ばかりかというと,実はそうでもありません。
2.休眠する目的
山野草は元々,あまり人が手を加えていない野生植物です。栽培化が進み,育てやすくなっている物もありますが基本は野生のままの性質を保持していると思ってください。植物は,種子の状態であれば風や水,時には動物を利用して移動することが可能ですが,ひとたび発芽してしまえばその限りではありません。乾燥しやすい季節や成育するのに温度が適当でない季節に発芽してしまえば,何もできずに枯れてしまう可能性が高いです。そこで,そういった季節を避ける機構を備えている種子がいるのです。この機構が休眠です。また,いくら発芽に適当な時期に芽を出せたとしても,散布された種子が一斉に発芽してしまっては,天候不順の年に当たったり,その植物を食べる昆虫が多い年に当たったりするだけで全滅するリスクがかなり高くなります。そこで,種類によっては,休眠で一斉に発芽しないよう調整していたりもします。つまり,種子の休眠は,種全体として発芽後の生存率を高める役割をしている,こう考えられるわけです(あくまでも人間が解釈するところは,です)。
3.種子の休眠の種類
さて,では具体的に種子にはどのような休眠があるのか,これを順に見ていきましょう。
(い)非休眠種子
まず,種子は休眠をする種子(休眠種子)と非休眠種子に分かれます。非休眠種子というのは,播種した際に発芽に必要な水,酸素,適当な温度の三要件が揃っているとすぐに発芽し始める種子のことです。多くの一年生の野菜,園芸植物がこれに該当します。自然界では,熱帯や砂漠,高山帯や亜寒帯に見られます。熱帯ではそもそも年中気温は成育に適当なことが多いですし,乾期は水が得られないので三要件を満たしません。砂漠も同様です。高山,亜寒帯の場合は種子が散布される時点ですでに温度が低下し,成育に適当でありません。ですので,これらの地域の種子は丁寧に保管し,発芽させたい季節に播種するのが適当,ということです。湿り気があったり温度が高いと動き出すことが多いので,一般に乾燥状態でジップロックなど空気の抜ける袋に入れ,冷蔵庫内などで播種まで保管すると良いでしょう。
(ろ)物理的休眠
一般的に,硬実種子と呼ばれるグループです。アオイ科,ウルシ科,ヒルガオ科,フウロソウ科,マメ科などに見られます。このタイプの種子は,種皮が物理的に水分や酸素を遮断するため,種子が十分に吸水や呼吸を行うことができず発芽に至りません。土中で眠り続け,斜面が崩れたり,川が氾濫したり,山火事が起きたりと行った大規模な攪乱で,他の植物がいなくなったところでいち早く発芽する植物が多いです。
打破する方法としては,砂と一緒に揉み込んだりヤスリがけにより種皮に傷をつける,種子を一部切る,熱湯に数分浸す,酸で溶かすなどが挙げられます。アサガオの種まきの際に,種子をヤスリで削ったことがある方がいらっしゃると思いますが,あれがまさに物理的休眠の打破処理に相当します。熱湯への浸漬,酸処理は時間の調整が難しいので,家庭で行う際はもっぱら傷つけ処理になるでしょうか。このタイプの種子も,種皮以外には休眠機構を持たない物が多いため,発芽させたい季節に休眠打破を行い,播種をします。吸水制限が発芽できない要員の場合が多いので,傷をつけた後播種前に十分に吸水させるのがポイントになります。
3の途中ですが,長くなってしまうので前編,後編に分割しようと思います。
後編に続きます。